デイズジャパン最終検証報告書の検証(2)  個々の検証はなく一括して証言の信用性が高いと判断したことへの疑問

報告書の検証

※注意:今回の記事は、セクハラの描写等を含むため、不快な気持ちになる可能性があります

セクシャルハラスメント(以下、「セクハラ」)被害の認定においては、一人の被害者につき、当事者の証言、それを裏づける複数の証拠、加害者の言い分を照らし合わせて丁寧に検証すべきという点については、異存はないことだと思います。他の被害の認定も同様ですが、セクハラ被害に関しては、より慎重な検証が必要です。

被害者のひとりひとりの検証には触れず、一括して被害者の証言はすべて信用性が高いと判断するやり方は公正だと言えるでしょうか。

実は、「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、「検証報告書」)はそんな手法になっています。週刊誌の報道に関しても同じです。「報道は事実であると確認した」(25頁8行目)とあり、報道された8人をひとつにとらえ、「報道された内容は事実」と結論づけています。なぜ「事実」だと確認したのでしょうか。その根拠は書かれていないのです。これでは、私たちは「検証報告書」の妥当性を客観的に評価、検証できません

セクハラを報道する際、最も重要なのが、確固たる証拠です。

そこで、海外ではどのようにセクハラに関する記事を扱っているのかをみてみましょう。

紹介するのは、ハーヴェイ・ワインスタイン(米ハリウッドの映画プロデューサー)のセクハラ記事を書いたニューヨークタイムズの二人の女性ジャーナリスト、Jodi KantorとMegan Twoheyです。二人の著書『She Said』(2019年9月)には、証拠固めの過程が詳細につづられています。

二人は、ひとりめの女性から聞いた証言を裏づけるために、似たような経験をした数十名の女性たちを取材し、聞いた話それぞれの裏をとり、ワインスタインのセクハラ手口の複数の共通点を見出し、加害を確信していったといいます。

掲載の1ヶ月前までに多くの情報を集め、相当数の証言を裏づけました。

それでも、まだ十分な証拠がそろっていないとみて、報道に踏み出しませんでした。一歩間違えれば名誉棄損にあたるため、具体的な証拠および公的な認証が必要だと考え、さらなる調査取材をつづけました。

二人は女性であり、長年ジェンダー問題を専門に調査報道をしてきたジャーナリストです。Kantorは2014年から特に女性の身に起きる問題などの調査報道をてがけ、もうひとりのMegan Twoheyは、2016年大統領選挙期間中にドナルト・トランプの性的加害行為を暴いた記者です。

興味深いのは、その彼女たちが、セクハラ報道が非常に難しいと語っているということです。

性暴力を報じる難しさは、被害者は多くが自分の経験したことを話したがらず、なかなか証言がとれない点にあります。たとえ相手が女性であっても、被害を打ち明けるのは非常に勇気がいるため、二人のジャーナリストが被害者を説得するのに苦労したといいます。

今回の検証報告書では、週刊誌報道が、固い証拠や、複数の証言をそれぞれ裏づける複数の情報に基づいて書かれていることを前提に、検証委員会もヒアリングや証拠を集めた結果、事実と認定したようです。

ただ、週刊誌報道を事実と認定する検証委員会の根拠には疑問が残ります。

検証委員会は、「複数の当事者から直接ヒアリングができた」(25頁6行目)こと、「広河氏とのメールのやりとり等の客観証拠を確認できたものもあった」(25頁7行目)こと、「広河氏の説明と照らし合わせた」(25頁7行目)ことを挙げています。ですが、「複数の当事者」とあり、週刊誌記事の被害者8名のうち、何人に直接ヒアリングができたのか、不明です。また、どのケースの客観証拠が確認できたのかも明らかにされていません。

「ヒアリング数」もさることながら、この検証報告書は、記載されている被害数と証言数が一致せず、証言がさまざまなページに散らばって重複して記載されているため、どの案件でどのような検証がなされたのか、非常にわかりにくい書かれ方をしています。

被害件数(19頁9行目~)をみてみましょう。

「性交の強要」 3件
「性交には至らない性的身体的接触」2件
「裸の写真の撮影」 4件
「言葉によるセクハラ」 7件
「環境型セクハラ」 1件

注意しなければならないのが、「一人が複数の様態の被害を受けている場合には、それぞれの被害ごとに人数をカウントした」とある点です。つまり、「検証報告書」には、被害者が実際は何人なのか書かれていないのです。

セクシャルハラスメントに関する証言(20~24頁)はどうでしょう。「検証報告書」は15件と書いています。内訳はこうなっています。

当事者 9名
当事者以外(相談を受けた、セクハラらしい話を聞いたなど) 6名

被害件数と証言数の内訳はこうなります。

「性交の強要」 3件はすべて当事者の証言
「性交には至らない性的身体的接触」 2件のうち1件は当事者の証言
「裸の写真の撮影」 4件のうち3件は当事者の証言

さらに「言葉によるセクハラ」は7件とありますが、証言は8名で、そのうち当事者は3名のみです。そして、環境型セクハラ1件は当事者の証言となっています。

週刊誌報道の8件についても不明確です。

「性交の強要」3件、「裸の写真の撮影」1件(3件のうち2件は他の様態との重複のためここでは省略します)は確認できました。

ところが、その他はどれにあたるのか、「検証報告書」では明らかにされていないのです。
結局、よく「検証報告書」を読めば、こう書かれているのです。

記載したもののほかにも、十分な認定ができなかったので具体的には記載はしないが、『セクシャルハラスメントだったのではないかと周囲が感じていた』、『こういう噂があった』というレベルのものも複数あった。
(24頁21行目)

証言者の実数を、なぜかあいまいしにしています。おまけに、実際にヒアリングをしていない新聞報道という“間接情報”の2件(24頁27行目)をここに加えているのです。

このように、「検証報告書」では、実際の被害者と、被害を耳にした第三者の証言が混在しています。にもかかわらず、検証委員会は検証報告書に記載された証言すべてを「信用性があると認定」(25頁4行目)し、「証言されたいずれの件も、『相手の女性の合意はなかった』と認定」(25頁23行目)しています。

前に紹介した、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ記事を書いたニューヨークタイムズの二人の女性ジャーナリストの裏取りに対する公正さと努力とを比べてみてください。検証委員会はセクハラ被害の認定というものを軽く考えているように感じます。

次回は、検証委員会がどのようにして証言を認定していったのかを詳しく検討してみましょう。





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