ジャーナリストのための性犯罪報道ガイダンス 3/4 人権団体が設定した報道ガイダンス

ガイダンス

海外の性犯罪サバイバーの支援機関のなかには、性暴力を誠実に報道するために、取材の準備からインタビューの留意点、記事構成や言葉遣いなど、細かい規定を提案している団体もあります。そうしたガイダンスは、報道機関や支援団体、そして多くがジャーナリストらの連携によって作成され、ネットで公開されています。

これらの規定に共通しているのは、「メディアは、性暴力を一般大衆に知らせて学ぶ機会を作り、議論を盛り上げ、性暴力についてのステレオタイプな考えを変える重要な役割を果たす」という概念です。ジャーナリストは、「可視化されていない性暴力を報道することで問題を提起できる」だけでなく、メディアがセクハラや性暴力を報じるのは、「個人の事件を通して、データの開示や法律の説明、根本的原因の分析などをすることで、性暴力の全容を明らかにし、それに関連する社会問題や人権問題を提起する」ことにあります。

1970年代に創立したミネソタ州の性暴力反対連合(Minnesota Coalition Against Sexual Assault、以下、MNCASA)は、「ジャーナリストは性暴力の重要な衝撃を世間に知らせる重要な役割を果たす」として、64ページにおよぶジャーナリスト向けガイド「Reporting on sexual violence: A guide for journalists」(2013年発行、2017年更新)を公開しています。

内容は、「言葉の重要性」「記者の役割は何か」「倫理面での考慮すべき事項」「統計および最近の傾向」といったジャーナリストの心構えや、性暴力の現状、防止に向けた対策、支援団体の連絡先などです。

最初の項目は「言葉の重要性」で、「言葉は非常に重要で、性暴力がどう理解されるかに多大な影響をおよぼす」と述べ、司法文書で使用する言葉を参照に、ジャーナリストが用いるべき言葉を提示しています。

性暴力は人が受け身、服従させられる行為であるため、それを描写する言葉は、不合意による行為だったことを強調するよう提案しています。性暴力を”経験した”と表した場合、自発的に参加した意味合いになり、痛みを軽減することになりかねません。そこで、暴力行為をより強調するために、“セックスを用いた暴力”として“性暴力”という用語をあらためてイメージするよう訴えています。

犯罪が実際に起きたのか不信を強めるという理由で、レイプや性的暴行“と言われている(alleged)”のような表現は避けます。

また、“被害者(victim)”という言葉は、刑事司法制度ではよく使用されますが、暴力を受けた人の中には、むしろ、“サバイバー(生還者)(survivors)”と表現されることを好む人もいると伝えます。

その他、具体的に、「(体を)さわられる(fondled / groped)」は「強制的に触れられる」、「キスをされた(kissed)」は「被害者の口に攻撃者が口を押しつけた」、「連れ添われる(accompanied / guided victim)」は「連行される、無理強いされる」などと言い回しを変えます。

官能や歓楽のように疑わせる言葉は避け、被害者/サバイバーに対する違法で悪質な、威圧的かつ強制的な行為であることを強調します。危害をより適確に表現するために、”合意の上での性交”という和らげた言葉も使うべきではありません。

「記者の役割は何か?」では、「メディアは、一般大衆を教育し、議論を盛り上げる重要な役割を果たす」ために重要であり、「ジャーナリストは、まだ知られていない暴行事件を報道することで問題を提起できる」としています。さらに、「個人の事件を取り上げることで、性暴力の全体像に触れる」「わかりやすく法律を説明する」「性暴力や関連する問題の資料を見つける」「性暴力の根本的原因は人種差別や性差別といったさまざまな社会的要因からきているといった共通する問題を考える」ことにもつながります。

「倫理面での考慮すべき事項」として、ニュースは異例なことを強調する特徴がありますが、「最もよくある性暴力の形は、知り合いや家族によるもの」と示し、「ジャーナリストは、仮定が間違っている可能性もあるため、その分野の専門家、メディアに話す心づもりのあるサバイバーに相談することが大切」とアドバイスしています。

また、報道に含める詳細については、「被害者/サバイバーに関する詳細(私生活、習慣、ファッション嗜好、肉体的外観)は、関連性や説明がなくても、その人たちを非難することにつながるかもしれない」と警告します。

「性的暴行サバイバーへのインタビュー」では、ジャーナリストに対し、「トラウマや怒り、悲しみの長引く影響にいまだ苦しんでいるかもしれない人に接近するのは難しいとみなすべきである」と前置きし、インタビューの準備では、質問事項を考え、どんな言葉や問題を避けるべきかを理解することが大切だとしています。さらに、「ある状況や写真、言葉、音、臭いが、襲われた記憶をよみがえらせる恐れがある」「加害者に”モンスター”とレッテルを貼るのは、彼らを社会から切り離すことになり、”彼ら対私たち”という力学を意味します。そうしたレッテル貼りは、”いい人”でも”悪い行い”をするという概念に不信感を抱かせることになり、疑わしい人を報告する妨げの要因になります。100%いいとか、100%悪いという人はいません。記者はつねに、できるだけ正確な言葉を使うよう心がけるべきです」と書いています。

アメリカの全国性暴力資料センター(National Sexual Violence Resource Center、以下、NSVRC)は、「性暴力に関する報道:ジャーナリストのためのヒント(Reporting on Sexual Violence: Tips for Journalists (NSVRC))」と題したジャーナリスト向けガイドを2017年に公開しています。

NSVRCは、1975年創設のアメリカで最も歴史のある国内最大の性暴力団体「レイプに反対するペンシルベニア連合(Pennsylvania Coalition Against Rape、PCAR) 」が2000年7月に設立した、性暴力を防ぎ、対処するための情報や手段を提供するリーダー的非営利団体です。同センターは、正しい情報に基づいた報道を促進するためにメディアと共に活動しています。

NSVRCのガイドは簡潔版ですが、ホームページの「性暴力報道」のページには、性暴力報道に取り組むジャーナリスト向けのガイダンスや情報が得られるリンク先が紹介されています。

ガイドは、「広範な対象者をインタビューする」からはじまります。「広範囲の利害関係者が、性暴力防止の役割を果たす」と述べ、「法施行機関、地域社会のメンバー、医療および精神医療の専門家、性暴力防止支持者、サバイバー、家族、加害者」といった多様な人々から情報を得るようアドバイスします。大半の性暴力事件は警察に届け出ないため、情報提供者を広げることが特に重要だといいます。

次に、「性暴力の全容および関係する広範囲の人について報道」するよう呼びかけます。

「性暴力は、同意なき性交だけにとどまらず、より多くの幅広い意味がある」とし、「望まない接触(体をさわる)、児童性虐待、言葉による精神的な脅迫、セクハラ、のぞき見、人身売買を含む、あらゆる形の性暴力に関する事件を調査」し、「政策立案者および市民があらゆる形での性暴力を理解し、抗議することがきわめて重大」と指摘します。マイノリティのサバイバー、罪を犯した側の人、性暴力により何らかの影響を受けた人など、広範囲の人を含むことで多様性を語ることが大切です。

記事の構成に関しては、解決策、特に防止方法について書くよう勧めています。発生率や防止策、暴行の理由へと関心を向けることで、性暴力は危険で避けられないという認識を変えることが可能だからです。「暴力を防ぐために地域社会はどう動いたか?」「それは効果があるか?」「地元関係者は何をすべきか?」「これらの方策をどう実行していくか?」といった疑問を調査し、「計画、政策、その他の方法の具体的かつ状況特有の参考となる事例を提供」します。

また、性暴力が招いた、被害者、家族、加害者、地域社会の状況を議論し、読者に「性暴力が公共衛生や社会的正義の問題であることを理解させる」ことも必要だと述べます。

このガイダンスでは、性暴力を受けた人々の「生活が決定的に崩壊するという神話を長く記憶にとどめるのを避けるために」、「サバイバーの苦境からの回復と心身の苦痛の癒しを強調」して伝え、「性暴力を犯した人々のリハビリおよび復帰の可能性を探る」ことも大切だと記しています。

さらに、「ホットライン、警戒のサイン、支援グループなどに関するより多くの情報を求めるために、読者に行動と情報提供を呼びかける」内容も加えることを推奨します。

 

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ジャーナリストのための性犯罪報道ガイダンス2/4 メディアの独立機関による規定

ジャーナリストのための性犯罪報道ガイダンス4/4 ユネスコの性暴力報道ハンドブック

 

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