#MeToo運動で増加した英米の大手新聞の性暴力報道 2/2

海外の報道

前回、「#MeToo運動で増加した英米の大手新聞の性暴力報道 1/2」のつづきです。

アメリカでは、2018年10月に女性メディア・センターが、2017年5月から2018年8月に新聞で掲載された、性暴力および#MeToo運動の15,228記事の見出し、記名の性別、内容を分析した調査報告書(Women’s Media Center「Media and #MeToo: How a movement affected press coverage of sexual assault」)を発表しました。

調査対象となった新聞は、国内で広く発行されている14紙、「シカゴ・サンタイムズ(Chicago Sun-Times)」、「シカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)」、「ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)」、「ニューズデイ(ニューヨーク)(Newsday (N.Y.))」、「タンパベイ・タイムズ(Tampa Bay Times)」、「アリゾナ・リパブリック(The Arizona Republic)」、「コロンバス・ディスパッチ(The Columbus Dispatch)」、「デンバー・ポスト(The Denver Post)」、「ヒューストン・クロニクル(The Houston Chronicle)」、「マーキュリー・ニュース(カリフォルニア州)(The Mercury News (Calif.))、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」、「シアトル・タイムズ(The Seattle Times)」、「ワシントン・ポスト(The Washington Post)」、「USAトゥデイ(USA Today)」です。

15カ月の調査の結果、アメリカの大手新聞では、性的暴行やレイプ、セクハラなど、#MeTooで明るみになった事件の報道が増えたことがわかりました。

#MeToo以前の性暴力、セクハラ、レイプ、痴漢などの記事数は、2017年5月には1日平均24記事でしたが、2017年10月以降は増加し、11月は最多の1日54記事でした。2018年1月まで高水準がつづき、その後ピークは過ぎたものの、2018年8月は31記事で、2017年10月以前に比べて30%増といいます。

ハッシュタグでの拡散により、オンラインや日常生活で人々が性暴力とセクハラについて告発する機会が増え、そのおかげで、新聞も報道に力を入れることになります。さらに、男女平等やリプロダクティブ・ライツ、賃金格差といった、別の女性の権利問題の議論の増加ももたらしました。

ただ、内容をみてみると、特定の性暴力事件からこの問題について述べるというよりむしろ、#MeToo運動それ自体に焦点を当てた記事が多く、それらは月に80~700記事だったといいます。2018年2月だけでも、#MeToo運動に関連した性暴力記事が55%以上あり、2018年の4ヶ月の割合は50%以上を維持しました。

この調査では、取材したジャーナリストの記名(署名)記事の数も分析しています。メディアは長年、白人男性が独占しており、女性、特に有色女性にとっては難しい業界として知られます。女性メディア・センターの2017年のメディア・ジェンダー・ギャップ報告書(Women’s Media Center「Divided 2017: The Media Gender Gap」)によると、アメリカの大手新聞のすべての特集記事のうち、女性の名前の記名記事は40%、またはそれ以下でしかありませんでした。

性的暴行の記事が増えた2017年5月から2018年8月までの記名の割合は、女性が47%(5,239記事)と微増しましたが、男性は53%(5,883記事)で半分以上を占めています。

もう少し詳しくみてみると、#MeToo運動が勢いづく以前、2017年5月から10月までの性暴力の全記事のうち、女性の記名は45%(1,408記事)で、男性は55%(1,688記事)でした。

運動の盛り上がってきた2017年10月以降、性暴力記事の女性の記名は増え、2018年8月までの女性の割合は48%(3,831記事)に上昇したものの、男性が52%(4,195記事)と半数以上です。ただ、2017年10月の1カ月だけをみると、女性の記名記事は52%に達しています。

同センターが2015年に発表したジャーナリストの性別と取材内容に関する調査(Women’s Media Center「Writing Rape: How U.S. Media Cover Campus Rape and Sexual Assault.」 )では、女性ジャーナリストのほうが、男性ジャーナリストより、サバイバーにインタビューする割合が高く、内容においても、襲われたショックなどサバイバー自身が経験したことを書いています。逆に、加害者とされる人の行動や衝撃についての引用は、男性ジャーナリストは35%と、女性ジャーナリストの32%より多いという結果でした。

性暴力に関する記事が増えたとはいえ、その数が実際に上昇するのは、有名人が事件にかかわるときだけで、メディアの関心が偏っていることも明らかになりました。非常に多く発生している”普通の”人の性犯罪事件などは無視されつづけているというのです。

女性メディア・センターは、メディアがどのような事案を選んでいるのか、逆に、何を取り上げていないのかについて、注意深く考える必要があると指摘します。そして、「いまだ沈黙している女性たちに広く声を出してもらうために、メディアは何ができるか?」について問い続けることも要求しています。

多くの女性が告発しはじめ、女性ジャーナリストがそうした訴えを広く伝えるようになったいま、さらなる前進に向けて、より包括的なニュースルーム(編集部)を作り出し、女性の性的暴行・セクハラに特化したセクションを設置するよう、女性メディア・センターは提言します。さらに、こうしたデリケートな事件を調査・報道する方法をジャーナリストに訓練させることも求めています。

性的暴行のようなテーマのメディア報道がおよぼす影響力を理解し、思慮深く慎重にこのペンの力を使うよう強調し、言論界は、ニュースを報道するだけが仕事ではなく、情報提供者、事件、考えを倫理的に扱うべきであるとも勧告しています。


増加する海外のセクシャルハラスメント報道



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