週刊文春デイズジャパンのセクハラ記事は本当に正しいか?2/2 情報のリークに金銭支払いの疑いも

報道の検証

前回に引き続き、「週刊文春」(以下、「文春」)が報じたフォトジャーナリスト、広河隆一さんの記事(2019年1月3日・10日号)を検証します(「週刊文春の広河氏セクハラ記事の取材録音を入手」)。

杏子さんと麻子さんは、性行為だけでなく、ヌード撮影のモデルになるよう強要されたとあります。

週刊誌の記事では、杏子さんは、裸の写真を「とくに断りもなく何枚か撮られた」といい、「嫌悪感を覚えましたし、あとになってどう使われるかわからない恐怖を感じました」とも述べています。

この裸の写真について、取材録音では、杏子さんも含め、「3人ほど、広河さんに裸の写真を撮られている、というのを聞いています」と記者は述べ、次のような説明でした。

広河:嫌がっているのを、僕が無理やり撮ったということですか?
記者:そうは言っていないですけど。
広河:じゃ。本人がOKしていたのを撮ったということですか? 
記者:そうですね、その時はそうですね。

このように、取材の際の会話と記事の内容は符合しません。

記者は、写真家が女性の裸を撮影するのを納得できないらしく、しつこく「ヌードを撮ることは多いのか」などと聞いています。そして、記事には次のような問答が掲載されました。

―なぜ裸じゃなければ駄目なんですか?
「その質問には僕は非常に腹が立ちます。あんたの中には女性の体に対する興味がまったくないのか」

しかし、実際には、広河氏は「僕は写真家だし、ヌードも大事な仕事だと思っていますから。仕事だけじゃなく、写真の質とかクオリティの問題としても……何で撮るのかという人は、初めて聞きました」と説明した後、こう述べています。

記者:なぜ裸じゃなければ駄目なんですか?
広河:裸じゃなきゃダメだなんて僕は言っていません。これ以上その質問に対しては腹が立ってきます。……あなたの中で女性の裸に興味がまったくないんだったら別ですが。

記事では、ヌード撮影の認識について、「欧米などのメディアで活動する写真家たちの間では確立されている」とあり、写真家クリスチャン・ロドリゲスさんのヌード撮影を例に挙げて説明しています(「海外の人権派フォトジャーナリストのセクハラ事件1/2」「2/2」)。

3人目の女性の智子さんも、ヌード撮影の場面から証言が始まります。

智子さんのケース/記者「今回のお話では関係ないです」

記事には、彼女がヌード撮影を「断りにくかったですし、どういうふうに撮られるのか興味もありました」と書かれています。

録音では、広河さんが智子さんのを撮影したのには合理的な理由があり、その経緯を詳しく伝えています。音声データのうち、約4割、30分以上が、この智子さんのケースについてで、その多くが撮影についての説明です。

ところが、その事情は記事にはまったく反映されていません。その理由を書かないで、あたかも広河さんがヌード撮影を強要したように印象付けています。

しかも、実際の取材では、記者はこの智子さんは、「性被害とは関係ない」と言っているのです。

記事には、智子さんが「福島原発事故の被災地の泊まりがけ取材に同行した」際に起きた出来事が書かれており、その部分は、智子さんの話から、「性被害とは関係ない」と記者は認識していたようです。

そうであれば、「文春」のタイトルの「性暴力を告発する」にも「セックス要求、ヌード撮影七人の女性が#MeToo」にも該当しないことになります。

にもかかわらず、週刊誌報道でも「デイズジャパン検証委員会『報告書』」でも、智子さんが被害を受けたと認定されています。

4人の女性のケース/記者「6人くらいですね」

週刊文春には、そのほか4人の女性の証言が載っていますが、その情報の確認は、実際の取材では次のように話しているだけです。

記者:この3人が僕の中では非常に深刻なケースだと。後はそれ以外には、実は、あのー、まだ6人くらい。
広河:6人?
記者:6人くらいですね、時期は違いますけど、デイズに関わった方が、広河さんにセックスに関する話を言われたとか、誘われたとか、というような話は。

繰り返し書いてきたように、サバイバーが性的嫌がらせの体験を話すのは、精神的に相当の負担となり、勇気がいることです。一人一人の事案を丁寧に確認することなく、このように「6人くらい」と簡単に扱うのは、サバイバーに対する誠実さに欠け、非常に失礼な態度といえます。

この取材録音の二人の会話を聴いてなにより腹立たしいのは、女性が渾身の勇気をふるって自分の体験を告白したと思われるのに、取材した側も、取材される側も、その口調があまりにも軽々しく、女性たちの痛みに寄り添っていないところです。 

録音データでは、記者は、自分が聞いた告発の内容をベラベラと広河さんに話しています。それは非常に危険なことです。なぜなら、告発された人が、女性たちに報復する恐れがあるからです。

たとえば、ハリウッドのプロデューサーの性的暴力を暴露した「ニューヨーク・タイムズ」(以下、「タイムズ」)では、記事公開についてワインスタインに伝える前に、記事に登場する女性たち全員に連絡し、警戒を促しています(「ニューヨーク・タイムズのセクハラ調査報道 3/3」)。

調査対象者への記事開示

告発者を危険にさらす恐れがあるとはいえ、記事の公表前に調査対象者に入手した情報を開示し、相手に最低24時間の回答時間を与えるのがジャーナリズムの通例です。

「タイムズ」では、事前にワインスタインとその代理人たちに会い、公表するつもりの告発、起きた日付と女性の名前をすべて知らせました。また、ワインスタイン自身の意見も記事に組み込む必要があり、最終的に48時間の回答の猶予を与えました。

一方、デイズジャパン社側は、発売日前日12月25日の早刷りを見るまで、記事の詳細は知らなかったようです。

「文春」の記者は、2018年12月20日に、広河さんを取材しています。しかし、二人の取材を記録した録音データには、何を掲載するかの説明はなく、回答時間に関する会話もありませんでした。

デッドラインの直前に相手に取材するやり方は週刊誌がよくやる手法です。最後に当事者に“当てた”足跡を残すためです。広河さんに取材した時点では、関係者への取材を終え、完成記事がほぼできあがっていたと思われます。

「文春」記事掲載までの間に、記者が広河さんとの取材で得た情報を当事者に確認したのか、裏取りをする時間があったのかどうかは不明です。取材の際に、広河さんは記者の発言の間違いを指摘したり、詳しく説明したりしていますが、それらは記事に反映されていません。

リークに金銭の支払いか?

「タイムズ」と「文春」の取材の発端は似ています。「タイムズ」の記者は、ワインスタインの噂を耳にしていましたが、確証がなかったため、ツイッターのそれらしきツイートを頼りに、証言してくれる人を探し出していきます。

一方、「文春」の記者も、噂から取材を進めたとあります。いつから取材をはじめたのか、どのように告発者と接触したのかは定かではありませんが、記者は告発者数人から話を聞くことに成功しています。

「デイズジャパン」元編集長の動画では、記者が元従業員に金銭を支払い、リークしてもらったという内情が語られています(3分ごろから)。

弁護士と検証を進めているうえで、ひとつ問題が浮かび上がってきました。なにかというと、実は、『デイズジャパン』の社員が、文春記者に情報をリークしているという可能性がでてきたんです。
社内の決まりで、どこの会社もそうだと思うんですけど、社内規定で、そういうものを他者に情報をリークしてはいかん、みたいなことが決まってはいるんですよね。
特にジャーナリズムにいると、いろんな情報を、たとえば誰から聞いたというのは言っちゃいけないとか。仕事上で知り得たことは外に出しちゃいけないというのもあるんですけど。
ただ、今回は巨悪を倒すためというのがあったんで、それはやむを得ないだろうというのがあったんです。
ただ、そこでどうやら、お金をもらっていた可能性がある、ということになって、そうすると、弁護士さんもさすがに、動きづらいと。
それはそれでもし問題になったら、この社員を、会社が訴えることになったら、弁護士としてこの社員をつぶさなければならなくなるから、非常にややこしい感じになっているというのがあったんです。
文春は、広河がやったこともそうですし、広河がやってきたことを黙認してきたデイズに対して、牙をむいてきたわけです。
社内でも経営陣とうまくいかなくて、この社員が、文春さんにお金を流してもらって、情報のやりとりをやっていた可能性があるということで。
そうなると、弁護士さんは経営陣に雇われているわけなので、この社員を処分しなければいけなくなる、と僕に言ってました。
社員を解雇せざるを得なくなると、この社員は僕より古くからいたし、すごく古くからいたわけではないですけど、ある程度の情報を知っているから、この社員を切っちゃうと情報量も低下するし、外から見たら、何やってんだ、この会社は、という混乱を招くわけですよね。
それはどうしても、広河の真相究明をする以外のことをやらなきゃいけなくなるから、その状態は避けたいな、と一時期フリーズしたという状況がありました。

裏を取っていないため、これが事実かはわかりません。

 『週刊文春』元編集長の木俣正剛氏は、「週刊誌に『タレコミ』をしたら、いくらもらえるか?元文春編集長が明かす」で、「実は一銭もお支払いしていません」と断言しています。


※「【検証・週刊文春】強要を否定の田村記者、記事では一転「抗えないまま」に: 田村記者の取材と記事の検証(1)」(2020年3月8日)を加筆更新しました。

 

デイズジャパン最終検証報告書の検証(15) 【NYタイムズと週刊文春】
デイズジャパン最終検証報告書の検証(16) 【NYタイムズと週刊文春
デイズジャパン最終検証報告書の検証(17) 【NYタイムズと週刊文春】


 

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