#MeToo運動で増加した英米の大手新聞の性暴力報道 1/2

海外の報道

#MeToo運動が各国に広まり、多くの人々の関心を引いたのは、メディアによる影響が大きいといえます。ソーシャル・メディアでの拡散が注目されましたが、イギリスとアメリカの調査によれば、既存メディアが#MeToo運動に大きな役割を果たしたことが明らかになりました。これまで消極的だった既存大手メディアもセクハラや性暴力の調査報道に乗り出し、#MeToo運動の議論の場を提供したのです。

イギリスを拠点とするフェミニスト研究者は、#MeToo運動がイギリスの新聞の電子版でどのように取り上げられたかを分析しました(European Journal of Cultural Studies「#MeToo, popular feminism and the news : A content analysis of UK newspaper coverage」、Sara De Benedictis, Shani Orgad, Catherine Rottenberg、2019年7月2日初版)。イギリスでは、ソーシャル・メディアより伝統的な新聞のニュースを信じる傾向にあり、新聞の部数は落ちているとはいえ、電子版の読者は増えており、新聞は国家的課題を提起する重要な基盤でありつづけているといいます。

研究チームは、報道データベースのレクシスネクシス(LexisNexis)を使い、「ニューヨークタイムズ」でハーヴェイ・ワインスタインの記事が最初に報道された直後の2017年10月11日から2018年3月31日までの間に、イギリスの大手新聞9紙の電子版で掲載された記事を調べました。「#MeToo」および「MeToo」のキーワードで検索したところ、3,450記事がヒットし、最終的に613記事を検証対象としました。

今回の調査で、以前は沈黙していた既存新聞も、セクハラや性的暴行の実態を明らかにするのに大いに加勢していたことがわかりました。全体的に、#MeToo運動がおこった時点からの6ヶ月間で、この問題に関するかなりの数の記事が新聞に掲載され、前述のキーワードで検索された全記事の59%(363記事)がセクハラ、性的暴行、レイプに直接焦点を当てた内容でした。

この時期の新聞報道は、ソーシャル・メディアで広がった#MeToo運動の可視化を強化しただけでなく、たとえば、オックスファム(2018年2月に発覚した職員による買春行為。2010年のハイチ大地震の復興支援をしていた職員のうち7人が、宿舎に地元の女性たちを複数人呼んで買春行為に及んでいた)やセイブ・ザ・チルドレン(2018年2月、セイブ・ザ・チルドレン・イギリスに勤務する女性がセクハラを告発。上級管理者2人のセクハラを認定した)といった人権団体(NGO)の性犯罪の独自取材記事も含まれます。

新聞はオンラインで広がった問題を掘り下げて確固なものとし、それによってソーシャル・メディアの枠を越えて運動を伝え、拡散するという役割を果たしたのです。

#MeTooに関する新聞報道において、以前とは明らかに異なる特徴のひとつは、「ガーディアン」や「インディペンデント」に代表される左派リベラル系の新聞だけでなく、保守系の新聞でもこの問題を肯定的に取り上げたことにあります。歴史的に保守系新聞として名高い、フェミニストと反対の立場をとる「デイリー・メイル」は、全体のほぼ3分の1(31%)にあたる190記事を掲載しました。

よく知られていることですが、メディアには女性側に非があったとするレイプ神話が根づいており、性的暴行の被害者に対する数々のネガティブな報道がなされてきました。性暴力は売り上げを伸ばす“かっこうのネタ”とみなし、センセーショナルな表現で読者の注意を引く手法が使われてきたのです。出版業界の経済危機がこれに拍車をかけ、既存メディアはソーシャル・メディアに対抗すべく、安っぽい性暴力記事を提供しつづけていました。

また、性暴力の被害者(以下、サバイバー)である女性を描写するときには性的な言葉がよく使われます。たとえば、レイプのサバイバーは、“処女”(のように純潔)か、“魔性の女”(だから誘われた)のどちらかに分類されがちでした。さらに、レイプは多くの人が被害に遭う社会的問題であるという認識に欠け、西洋では特に、白人、中流階級、高学歴、品行方正、若い、魅力的といった理想的な被害者を描くことが好まれていました。

それが、#MeToo後に変化がみられたといいます。保守系の「デイリー・メイル」でさえ、#MeToo関連報道の半分以上(95記事)が肯定的な内容で、それがまさにその証拠といえます。

#MeTooを肯定的に報じた記事は全体の56%で、左派リベラル系の「ガーディアン」は70%(111のうち78記事)、「インディペンデント」は67%(78のうち52記事)と圧倒的に多く、一方、全体の15%は否定的な論調で、「タイムズ」(29%、45のうち13記事)、「デイリー・エクスプレス」(31%、29のうち9記事)でした。

ただ、イギリス最大の日刊タブロイド紙「ザ・サン」は、女性を性的対象化することでよく知られ、#MeTooの記事は半年間の全記事のうちのたった5%(28記事)にすぎませんでした。それでも、その半分以上(54%、15記事)が肯定的な論調で、#MeTooが既存メディアのジャンルを超えて広範囲に拡大したことを示しています。

新聞で報道された#MeToo関連の記事はエンターテイメントとファッション業界に集中しがちで、全体の60%(369記事)を占めます。「デイリー・メイル」のような新聞では特にその割合が高く、71%(135記事)でした。

それとは反対に、女性雇用者が非常に多いサービス業や営業事務を取り上げた記事はたったの2%(11記事)、同様に教育分野も2%(14記事)でしかありません。サービス業といった職種で働く女性の多くは、より貧しく、有色人種で、移民です。

また、新聞は#MeToo運動を通して表面化した問題を伝えてはいますが、実行可能な解決策を探るべきだという視点に欠けるという結果になりました。自ら報道した問題に取り組むための助言や救済策を議論する場を提供していないのです。

分析した全記事の41%(253記事)が、可能な解決策についてまったく触れておらず、15%(94記事)が、「声を上げる権限を女性に与え、告発するよう女性を支援するのが、実行可能な解決策になる」と提案しています。その次によく出てくるのは、「性差別と父権性を根絶し、根本的な構造変化を要求する」といったよりラディカルな発案で、記事の8%(47記事)に見られました。その他、「職場でのジェンダー規定や手続きを変える」が6%(35記事)、「女性が互いに支え合う」が5%(29記事)、「法律の改定」が4%(27記事)、「ハラスメントや不正行為を犯した男性を暴いて罰する」は4%(25記事)、「女性が自分で身を守り、“ノー”と言う」が2%(13記事)、「男性が声を上げるか、セクハラや暴行について抗議するよう他の男性を鼓舞する」が1%(5記事)、それ以外の解決策が14%(86記事)でした。

よりラディカルな変化の提案は、「ガーディアン」(19%、21記事)や「インディペンデント」(1%、8記事)といった左派新聞で非常に多く掲載され、「デイリー・メイル」では4%(7記事)でした。

 

増加する海外のセクシャルハラスメント報道

 


 





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