#MeToo後の過剰なセクハラ報道1/2 人気コメディアンを告発したネット記事に批判

海外の報道

2017年10月に「ニューヨーク・タイムズ」(以下、「タイムズ」)でハリウッド大物プロデューサーのセクハラが報道されてから数カ月も経たずに、#MeToo運動が大々的に広がり、多くの女性たちが自分の体験を語りはじめました。前述したように、アメリカやイギリスなどでは、性的嫌がらせを告発する報道も増加しました(#MeToo運動で増加した英米の大手新聞の性暴力報道1/22/2)。

その一方で、行き過ぎた告発も問題になっています。なかでも、アメリカを騒然とさせたのが、俳優・コメディアンのアジズ・アンサリさん(『マスター・オブ・ゼロ』他)を告発するネット記事です。

そのBabe.netの記事(I went on a date with Aziz Ansari. It turned into the worst night of my life(アジズ・アンサリとデートをしました。それは私の人生で最悪の夜となりました)で性的暴行の体験を語ったのは、グレイスさん(仮名)という名の23歳のフォトグラファーです。アンサリさんとは2017年秋のエミー賞授賞式のアフターパーティで出会います。彼女の告発によると、一週間後の初デートの日、アンサリさん宅で無理やり関係を迫られたというのです。

記事には、アンサリさんのコメントはなく、次のような二人が交わしたメッセージのスクリーンショットが公開されました。

デートの翌日、アンサリさんから「昨夜は楽しかったよ」とメッセージが届くと、「私は違ったわ。暗黙のシグナルを送ったのに、無視したわよね」と返信。それを読んだアンサリさんは、「僕は誤解をしていたようだ。本当にごめんなさい」と謝罪しています。

アンサリさんの記事が2018年1月13日(土)に公開されると、24時間以内に250万アクセスを記録しました(The Wild Ride at Babe.Net The Aziz Ansari controversy was just the beginning of the trouble for the website.)。そして瞬く間にこの記事は、「#MeToo運動を拡大させる」「いや運動を歪曲して死滅させる」といった意見の対立を引き起こします。

この記事を知ったアンサリさんは、日曜日(14日)にすぐ声明を発表しました。その中で彼は、双方の合意だったと述べ、自分は何の問題もないと思っていたため、翌日、「彼女からそうではなかったと聞かされ、驚いたし、気にしました」「僕は彼女の言葉をしっかり受け止めました」と反省の色を示しました。最後に#MeToo運動に触れ、「運動は必要だし、自分はこれからも支え続けます」と締めくくっています。

アンサリさんの声明が発表されると、ほぼすべての大手新聞で、#MeToo運動をめぐる意見の対立、性的暴行報道の是非といった議論が報じられました。

「タイムズ」でバリ・ワイスさんは、「稚拙で下品……狡猾な企み」とグレイスさんの記事をあざ笑うコラムを書き、ケイトリン・フラナガンさんは「アトランティック」紙で、「3000文字のリベンジ・ポルノの発表は、Babeとグレイスより価値のある男性を崩壊させる」と集中攻撃しました。

この記事は、フェミニストたちの“ジェネレーション・ギャップ”を可視化させることにもなりました(Fun, Free-Wheeling, and Kind of Terrifying A deep dive into the archives of Babe.net.、2018年1月17日)。Babeで発表された記事の半数近くは、このサイトの編集者やライターの年齢(平均25歳)より上の世代の人たちを怒らせるような内容だったのです。

記事を掲載したBabe.net(閉鎖)は2016年5月に、ザ・タブ(The Tab)と呼ばれるイギリス拠点の出版ネットワークのオフシュートとして開設されました。ザ・タブを創設したのは、イギリス人ジャーナリストのジャック・リブリンで、彼は19歳のケンブリッジの学生だった2009年からサイトをスタートし、2017年にはメディア王のルパート・マードックのニューズ・コーポレーションから600万ドルの出資を受けています。ザ・タブは大学の取材記事が中心なのに対し、Babeは18~24歳前後の若者をターゲットに、フェミニズム、芸能人、星座などのカルチャー記事を掲載していました。若いジャーナリストが無償で記事を書き、ライターの平均年齢は約23歳、最年長の編集スタッフは25歳だったといいます。

グレイスさんの告発記事に最も痛烈に批判したのは、CNNが運営する24時間ニュース専門チャンネルHLNの女性キャスター、アシュレイ・バンフィールドさんです。彼女は自分の番組「クライム&ジャスティス」で、記事が公開された2日後の月曜日(15日)に、「あなたはデートで嫌な思いをした」だけで、「これはレイプでも、性的暴行でもない」と厳しく指摘し、「あなたは、女性たちが何十年も夢見ていた運動、私が放送業界で30年も苦しんできた男女差別の職場環境をついに変えようとしている運動を台無しにする」と、グレイスさんの告発が#MeToo運動全体の弱体化につながると懸念を示しました。

バンフィールドさんはまた、「世界中のハーヴェイ・ワインスタインやケヴィン・スペイシーのような人に対する反発が爆発的に増加し、#MeToo運動が多くの間違いを正し、若い女性がこれまでよりずっと働きやすくなっていく」とも言っています。

そして、グレイスさんの行動を“無謀で中身がない”とバッサリ斬り、匿名での告発にも苦言を呈しました。さらに、カメラマンを名乗る若いグレイスさんに、キャリアを積んでいくうえで、「性的暴行ではなく、うまくいかなかったデートを理由に、自分が他の誰かのキャリアを傷つけたことを忘れないでほしい」と忠告しました。そして、「次回こんなデートになったら、すぐに起き上がり、洋服のしわをのばして、さっさとその場を立ち去ってほしい」とも述べました。

ところが、事態はこれで収まりません。この記事について議論しようと、執筆者であるキャティ・ウェイ記者を番組に招待したのですが、ウェイ記者は申し出を断り、そのときに送りつけた文章がバンフィールドさんを憤慨させたのです。

翌日、火曜日(16日)の番組のなかで、バンフィールドさんは、ウェイ記者から届いたメールを「シェアしたい」と読み上げました。

その文章は、「45歳以下の人は誰も絶対知らないような、アッシュレイ(?)とかいう人が、情報提供者を直接非難するというやり方は、私のこれまでの人生経験のなかで、最も低俗で最も卑劣。アッシュレイはみっともないし、HLNは恥知らず」とはじまります。

「アシュレイは私に“話す”ことができたはず。彼女は編集者や編集長に“話す”ことができたはず。でもその代わりに、これまでの人生で最も滅入っている状態にいる23歳の女性を標的にした」とつづけ、アシュレイさんを「ワインカラーの口紅、趣味の悪いハイライトカラーの髪の第2波フェミニスト」と揶揄したのです。



検索

カスタムアーカイブ

セクハラ報道と検証を考える会の記事・写真・音声の無断転載を禁じます。すべての内容は著作権法、国際条約で保護されています。

QooQ