異例ずくめのデイズジャパン検証報告書がなぜ絶賛されるのか?1/3 セクハラ調査の比較分析からその信頼性を問う

報告書の検証

#MeToo運動を契機に、日本でも性犯罪の告発が増加しています。セクシュアル・ハラスメント(以下、セクハラ)に関しては、事件を調査・検証して明らかにし、企業や組織が説明責任を果たすことが求められます。今後ますます、告発されたセクハラの調査・検証は増えると推測されます。セクハラ、性的暴行は、その検証結果が関係者に非常に大きな影響を与えるため、特に慎重に作成されるべきです。

セクハラ調査報告書のなかでも、週刊誌報道がきっかけで、1年かけて作成された「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、デイズ報告書)は、メディアや知識人、研究者らから絶賛されました。

このセクハラ事件の検証委員3人のうち、ひとりはセクハラの著書もある労働ジャーナリスト、ひとりはセクハラや性被害をてがける弁護士です。この分野の専門家が担当した「デイズ報告書」は、今後の貴重な資料としての意味もあります。

現にこの報告書は、「デイズジャパン社の事件から得られる教訓」(110ページ)で締めくくられています。そもそも「広河氏がセクハラを繰り返していたという報道は、社会でも大きな衝撃と関心を持って受け止められた」ため、この検証が行われたのであり、ここで明らかになった実態は、社会的に役立てるよう書かれたというのです。

「デイズ報告書」より引用(110ページ)

ところが、この「デイズ報告書」は、他のセクハラ調査報告書とさまざまな点で異なっています。お手本となるどころか、これまでも指摘してきた通り(「デイズジャパン最終検証報告書の検証(1)~(14)」)、多くの欠陥が目につきますす。そこで、「デイズ報告書」がこれまで公開されている他のセクハラ調査報告書とどれだけ違うか、検証してみたいと思います。

検証にあたり、インターネットで閲覧可能な数少ないセクハラ調査報告書である、JPホールディングスのセクハラ案件を調査した「調査報告書(要点版)」(株式会社JPホールディングス第三者委員会、2017年11月16日 、以下「JP報告書」)と「神戸市立小学校における職員間ハラスメント事案に係る調査報告書の概要」(神戸市立小学校における職員間ハラスメント事案に係る調査委員会、2020年2月21日、以下「小学校報告書」)を比較対象にしました。

「JP報告書」より引用

「小学校報告書」より引用

「JP報告書」のセクハラ事件は、社長の女性従業員への性的行為を一部週刊誌が報じたもので、加害者とされる男性は事実を否定しています。「小学校報告書」のほうは、同小学校で発生した職員間のパワハラおよびセクハラの事実関係を明らかにしたものです。

ここでは、この二つ事件そのものについては触れません。どちらの報告書も概要版ではありますが、構成や記述方法を「デイズ報告書」と比較しました。

また、嘱託職員が子ども3人にわいせつ行為を犯した「一時保護所嘱託職員による保護児童へのわいせつ事件検証委員会報告書」(滋賀県社会福祉審議会児童福祉専門分科会児童虐待事例検証部会、2010年11月25日)と、事件の内容は大きく違いますが、「野田市児童虐待死亡事例検証報告書(公開版)」(野田市児童虐待死亡事例検証委員、2020年1月)の検証報告書の形式も参照しました。

第三者委員会のガイドラインには準拠せず

民間企業などではコンプライアンス意識が高まっており、組織において、違法行為や不正行為といった不祥事が発生した場合、外部者で構成された委員会を設置し、調査を依頼するケースが増えています。

外部者による企業の不祥事調査に関しては、日本弁護士連合会が、「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(2010年7月15日制定、同年12月17日改定、以下「日弁連ガイドライン」)を制定しています。

「日弁連ガイドライン」では、「第三者委員会は、証拠に基づいた客観的な事実認定を行う」とあり、調査手法として、「関係者に対するヒアリング」「書証の検証」「アンケート調査」「ホットライン」など「各種の手法等を用いて、事実をより正確、多角的にとらえるための努力を尽くさなければならない」としています。指針として、「各種証拠を十分に吟味して、自由心証により事実認定を行う」「法律上の証明による厳格な事実認定に止まらず、疑いの程度を明示した灰色認定や疫学的認定を行うことができる」とされ、委員の数、委員の適格性なども規定しています。

「JP報告書」(1ページ、画像上の下段)も「小学校報告書」(10ページ、画像下)もこのガイドラインに準拠している旨を明示しています。「デイズ報告書」は、「日弁連ガイドライン」には触れていません。

「小学校報告書」より引用(10ページ) 

第三者委員会は調査・検証の結果をまとめ、報告書を提出します。報告書は、調査結果を今後に活かす目的もあるため、公共団体や企業の多くがホームページなどで公表します。

こうした調査報告書のなかでも特に性犯罪に関しては、プライバシーの保護の観点から、要約版を公開するのが一般的といえます。「JP報告書」は本編のページ数は記されていませんが、要約版は39ページです。「小学校報告書」は、120ページ(本文110ページ、別紙10ページ)を45ページに要約しています。

ところが、「デイズ報告書」は、113ページ全文をデイズジャパン社のホームページで公表しました。人権侵害に抵触するようなプライベートな内容もそのまま一般公開されました。

報告書の原則を無視して調査結果と主観を混在

調査報告書は多くの分野で日々作成されており、書き方には一定の決まりがあるようで、弁護士やビジネス情報サイトなどが手順やフォーマットを紹介しています。

報告書は、依頼された内容について調査した結果をまとめるのですから、私見を排除し、正確かつ客観的に記述するのが原則です。根拠となる証拠やデータ、資料なども簡潔に盛り込むことが求められます。

また、調査担当者の意見も入れますが、調査結果と意見・主観を混同すべきではないとされ、所感は項目を分けて、最後などにまとめるのが一般的のようです。

こうした調査・検証報告書の書き方を踏まえて、「デイズ報告書」をみていきます。

「デイズ報告書」は、要約版の他のセクハラ調査報告書と単純には比較できませんが、フォーマットや内容がかなり異なります。本来、どのような職業であれ、肩書であれ、社会的地位であれ、不法行為の調査報告書は同じ基準で作成されるべきです。デイズジャパンのケースが特例であるのなら、その理由を明記する必要があるでしょう。

目次の立て方も特殊です。

上記した調査報告書以外に、ホシザキ株式会社「調査報告書(公表版)」(2019年5月5日)、日本紙パルプ商事株式会社「調査報告書(開示版)」(2018年5月18日 )など、複数の調査報告書とも比べてみました。

調査報告書の流れは、「調査により判明された事実関係」をまず明確に記載し、「原因分析」「再発防止の提言」といったものが多いのですが、「デイズ報告書」は、どこからどこまでが「調査により確認された事実関係」なのか、はっきりしません。

目次をみてわかるように、デイズ報告書は調査した結果と調査担当者の意見が入り乱れ、「事実」と「思い込み」「推測」が混在しています。

また、根拠となる証拠やデータ、資料などは記載されていません。

 次回(2/3)は、具体的に中身を検証していきます。 


異例ずくめのデイズジャパン検証報告書がなぜ絶賛されるのか?3/3


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