海外の人権派フォトジャーナリストのセクハラ事件2/2 男性支配のフォトジャーナリズム界

海外の報道

2018年2月のフォトジャーナリストの性的不正行為についてのSNSの投稿では、名前は伏せられていました。でも、アルゼンチン人写真家フェデリカ・ゴンザレスさんは、それがクリスチャン・ロドリゲスさんだと気づきます。

そこで彼女は、フェイスブックにロドリゲスさんを非難する投稿を書きはじめます(「海外の人権派フォトジャーナリストのセクハラ事件1/2」)。

ゴンザレスさんは、2016年にブエノスアイレスでロドリゲスさんに会いました。友人にロドリゲスさんのアシスタントとしての仕事を勧められ、『ナショナル・ジオグラフィック』の写真家と働けるかもしれないと期待したそうです。

ところが、アシスタント候補者の顔合わせの席で、全員女性なのに不審を抱きます。最終候補者たちとのランチの後、彼はゴンザレスさんを家まで送り、彼女のアパートでポートレイト撮影をしていいかと尋ねたといいます。彼女は、その申し出を断りました。

ゴンザレスさんは2か月間、彼のアシスタントとして働きました。ロドリゲスさんから、ヌードモデルになる女性を見つけられないかと尋ねられたときは断り、彼への不快感を葬ることにしたといいます。

ゴンザレスさんがフェイスブックに投稿した後の2018年3月、4カ月もの間、ロドリゲスさんの除籍を公表しなかった国際写真団体「プライム」は、「クリスチャン・ロドリゲスとの体験について勇敢に声を上げた女性たちを支持し、支援し、称賛します」「それが起きたときにロドリゲスの除籍を発表しなかったことをいま後悔しています」と声明を出しました。

他の女性たちも、ロドリゲスさんとの似たような経験を語っています。その多くが、フォトグラファーとして駆け出しの時期に起きていました。

2016年2月、当時25歳だったコロンビア人写真家リナ・ボテロさんは、コロンビアでロドリゲスさんが主催する2日間のワークショップに参加しました。彼から写真を誉められた彼女は、ひとりだけ1年間の無料指導を受ける優待生に選ばれました。

ワークショップ終了後のパーティで、ロドリゲスさんは彼女のフェイスブックにメッセージを送りはじめ、「君を撮影したい」「僕は君の先生になりたい」「君のプロジェクトも支援したい」などと書いてきました。さらに、2~3時間ホテルの部屋を借りて彼女を撮影することを提案してきたといいます。ボテロさんはその提案を断りながらも、ロドリゲスさんの指導にはまだ興味を持っていることを伝えました。

しかし、彼は仕事で彼女に会うたびに、撮影させるよう執拗に言いつづけました。彼がその話題を持ちだすときはいつも、彼女の写真家としての将来や、自分のアシスタントとして働くことについて話したといいます。

ボテロさんの家で3回目に会ったとき、彼はついに撮影しはじめました。「断ったら、指導を受けられないと思った」「その時にそれはたいした問題だと思わなかった。“受け入れたら、たぶん立派な写真家になるだろう”と自分に言い聞かせた」と彼女は言っています。

同意したものの、彼は彼女をベッドに押し倒し、「もっとセクシーに」と言ったり、馬乗りになったりして写真を撮ったため、彼女は小さな叫び声を上げ、出ていくよう頼んだそうです。

ロドリゲスさんは後になって、不快にさせたことを謝罪し、お金を支払うと申し出ましたが、彼女は返信せず、何が起きたか誰にも言いませんでした。ボテロさんは、仕事に対する自信を失い、傷ついたといいます。

この件に関し、ロドリゲスさんは、ボテロさんを触ったり、無理矢理撮影させたりしようとしたことを否定しています。「私が指導している南米の写真家はたくさんいて、条件をつけたり、交換を前提としたりしたことは一度もない」」と彼はCJRへのメールに書いてよこしたそうです。

エクアドルのフォトジャーナリスト、イサドラ・ロメロさんは、2016年5月にキトでロドリゲスさん主催のワークショップに出席しました。ある夜、彼女は、バーで偶然ロドリゲスさんに会い、二人きりになったつかの間の時間に、ロドリゲスさんは彼女の作品を誉め、「自分と働いたら、雑誌に君のプロジェクトを取り上げることができる」などと言いました。

ロメロさんが夜遅く帰宅したとき、ロドリゲスさんから、滞在しているアパートに来ないかと、メールがありました。彼女は断りましたが、彼からしつこく、「寝よう!!」などと顔文字付きのメールが送られてきました。ロメロさんは返答せず、二度とワークショップに戻らなかったといいます。

この件に関し、ロドリゲスさんは、「ワークショップの参加者全員に仕事を援助すると申し出た」「他の参加者と同じ方法でアパートに彼女を招待した」と弁明しています。

キラさんという女性は、ロドリゲスさんのドミニカ共和国への取材旅行に、アシスタントとして雇われました。出発前にロドリゲスさんは彼女に、予算が限られているため、部屋を共有しなければならないかもしれないと言いました。CJRに提供したキラさんのロドリゲスさん宛メールには、「同室は居心地が悪い、単に仕事の関係だけにしたい」とはっきり書いてあるそうです。現地に到着すると、ロドリゲスさんは彼女に、「シングルルーム一室しか空いていないので、部屋をシェアする」と言ったそうです。彼は、ベッドの上で彼女の写真を撮らせるよう強要し、彼女が協力しないと怒ったそうです。知り合いが誰もいない国で、お金もほとんどなかったため、キラさんはロドリゲスさんの要求を拒絶できないと思い知らされたといいます。2~3日後、任務途中でしたが、彼女はメキシコにひとりで戻りました。彼女は当時の友人にメールを送っています。

これに対しロドリゲスさんは、キラさんがホテルの同室に同意したと反論しています。「不快なら、この取材旅行に同行しないほうがいいと繰り返し、3回以上は彼女に伝えた。もっと予算のある他のプロジェクトまで待つことができると話したが、彼女はこうした条件で旅行したいと主張した」と言い、「撮影の同意を彼女に強要したことはなく、彼女に断られたのでやめた」とつけ加えたそうです。

なお、ロドリゲスさんは現在もフォトジャーナリストとして活動しており、彼の公式サイトによると、ワークショップも開催しています。前述のジャーナリスト、アリス・ドライヴァーさんは、2020年1月23日に、「32人の女性をセクハラ・性的暴行した写真家が、メキシコでのワークショップの広告を出している。彼はこうしたワークショップで女性たちを搾取した」とツイートしています。このときのインスタグラムのスクリーンショットでは、フォロワーが12万8000人、2021年6月現在では11万8000人を数えます。

CJRの特別レポートでは、フォトジャーナリズム業界の男女格差についても伝えています。『ナショナル・ジオグラフィック』、「タイムズ」紙、『タイム』、「ワシントン・ポスト」紙といった大手報道機関の写真セクションの上層部の女性の数はかなり増えましたが、この分野はいまだに男女格差が大きいままです。

たとえば、最も権威のある世界報道写真大賞の応募者は85%が男性です。AP通信の写真部の女性が占める割合はたった14%で、米国では19%ですが、国際的には11%でしかありません。

また、フリーランスのドキュメンタリー写真家ダニエラ・ザルツマンさんの主導で2017年に創設されたウィメン・フォトグラフ(Women Photograph)が行った調査によると、2017年の1年間に8つの世界的に知られる新聞のトップニュースの署名入り写真の性別を調べたところ、女性カメラマンの署名写真が最も少なかったのは「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のわずか6.2%で、最も多かったのは「サンフランシスコ・クロニクル」紙の23.4%でした。


 

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