異例ずくめのデイズジャパン検証報告書がなぜ絶賛されるのか?2/3 不明瞭な資料確認とヒアリング方法

報告書の検証

 

 

  

前回書いたように、「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、デイズ報告書)が、通常の調査(検証)報告書とは異なる具体的な中身を検証します。

不明瞭な関係資料の確認状況

 日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、日弁連ガイドライン)の調査手法にあるように、調査はヒアリングや書証の検証などの根拠に基づいて事実認定が行われます。そのため、調査報告書には、どのような手段を用いたのかを明記します。

株式会社JPホールディングス第三者委員会「調査報告書(要点版)」(以下「JP報告書」)では、「本件調査に係る調査方法」の項目に、「(1)関係資料の確認・精査」「(2)関係者に対するヒアリング等の実施」「(3)対象会社の役職員向けアンケートの実施」「(4)当委員会を情報提供窓口とするホットラインの設置」と実施された調査方法が記されています(11~12ページ)。資料は次のような内容です。

(1)関係資料の確認・精査
当委員会は、本件調査のため、以下の資料を確認・精査した。なお、本報告書(要点版)では、資料の詳細についての表示は割愛する。
・就業規則、職務分掌を定める規程、その他の内部規則(セクハラ規程を含む。)
・対象会社の組織図
・取締役会議事録
・監査役会議事録
・コンプライアンス委員会議事録(一部につき音声データを含む。)
・経営会議・業務改善会議議事録
・内部監査資料
・人事資料(採用に関する資料、懲戒処分に関する資料を含む。)
・保育園、学童・児童園の業務マニュアル
・社内研修の実施状況に関する資料
・職場環境満足度調査に関する資料
・カウンセリング(社外相談窓口)に関する資料
・社内電子メール(関連するもの)
・その他関連する資料

神戸市立小学校における職員間ハラスメント事案に係る調査委員会「神戸市立小学校における職員間ハラスメント事案に係る調査報告書の概要」(以下「小学校報告書」)は、神戸市教育委員会が事前に調査を行っており、当該委員会が入手したのはサバイバーからの申告が主な資料で、ヒアリングと書面で事実認定を行っています。資料については次のように書かれています(3ページ)。

 市教委による以下の事前調査結果も、本調査委員会の基礎資料とした。
 すなわち、本調査委員会の設置に先立ち、令和元年9月4日から10月9日にかけて、平成31年度及び平成30年度の在籍者(管理職・被害教員・育休中除く)全員(37名)を対象に、市教委による一斉個別ヒアリングが行われ、さらに、うち15名と管理職4名(平成29年度の前々校長含む)を対象に追加ヒアリングが行われた。
 また、被害教員がわからは市教委・学校に対し計19通の書面等が提出されていた。ただし、本調査委員会には、発足当初はそのうち九通の書面しか市教委から提出されていなかった点については、後述する。〈略〉

 「デイズ報告書」はどうでしょう。

「第1  調査経過」の「2  調査の方法」に「(1)資料調査」「(2)ヒアリング調査」とあり、次のように箇条書きされています(8ページ)。

(一)資料調査
当検証委員会は、以下の資料に基づき資料調査を行った。
①当検証委員会の依頼に基づき会社から提供を受けた資料
②当検証委員会の依頼に基づき広河氏から任意に提供を受けた資料
③広河氏から任意に提供を受けた資料
④関係者から任意に提供を受けた資料
⑤週刊誌や新聞などの報道
⑥一般に公開されている情報

 ①の「会社から提供を受けた資料」がどのようなものであるのか、②と③の「広河氏から任意に提供を受けた資料」の違いは何なのか、④の「関係者……資料」や⑥「一般に公開……情報」はどのようなものか不明です。

⑤に「週刊誌や新聞などの報道」とありますが、それが客観的な検証の資料として用いられています。週刊誌は『週刊文春』とみられ、引用されている新聞は、「東京新聞」と「神奈川新聞」(24ページ)です。この2紙の記事はサバイバーの証言、すなわち手記でしかなく、いずれも調査報道とはいえません。「神奈川新聞」の2019年4月9日付電子版「DAYS広河隆一氏性暴力問題 元社員『つながり声を』」は有料記事ですが現在も読むことができます。「東京新聞」の2019年2月18日電子版「広河氏の性暴力など五人証言『恐怖で体が動かず』」は削除されています。


「JP報告書」は39ページの要点版のため、「資料の詳細についての表示は割愛する」とありますが、113ページにおよぶ「デイズ報告書」には、資料の詳細どころか、具体的な書証はまったく出てきません。社内電子メールの引用は記載されており、それが「資料調査」の項の「提供を受けた資料」なのかもしれませんが、判然としません。

あいまいなヒアリング方法

ヒアリング等に応じた人数と方法、時間の内訳も、「JP報告書」は明確に書かれています(12ページ)。

(2)関係者に対するヒアリング等の実施
当委員会は、以下の関係者33名について、面談、スカイプ利用会議又は電話会議により、合計38回のヒアリング等を実施した。ヒアリング等の実施にかかる総時間は、34時間6分である。
・対象会社の役員 5名
・対象会社の従業員 18名
・対象会社の役員以外の者(対象会社の退職者を含む。) 8名
〈略〉

「小学校報告書」も、ヒアリングした人数と回数、実施日が明記してあります(3~5ページ)。

本調査委員会による関係者のヒアリングに関しては、追加調査も含むと、後述する被害教員1名に5回、被害者とされるその他の教員3名のべ7回、加害帰京員4名のべ15回、管理職4名のべ9回のほか、これらの教員らを除く平成29年度から平成31年度に在籍していた教職員50名中、聞育休中等を除く44名について、全員にアンケートを実施した上で、教職員32名に対してのべ34回実施した。


「デイズ報告書」は、次のような文章で説明しています(9ページ)。

最終的なヒアリングの実施人数は合計45名である。
このうちデイズジャパン社元社員(アルバイト含む)は11名、広河事務所元社員(アルバイト含む)は4名、元ボランティアは4名、元インターン生は1名、アウレオ社からの出向社員2名、役員及び元役員は5名(広河氏を含む)、DAYS JAPANに関わったフリーランスの編集スタッフ4名、デイズジャパン社顧問税理士1名、デイズジャパン社顧問社労士1名、その他(ジャーナリスト等広河氏との何らかの交際があった者)が12名である。

このほか、ヒアリングには応じないとしながら、かわりに書面による情報提供を行うという協力が3名よりあった。関係者からのヒアリングのきっかけは、当検証委員会からのなんらかのアプローチのほか、情報提供者が他の情報提供者をご紹介下さったり、情報提供者が自ら検証委員に「お話ししたいことがある」と連絡してこられるということもあった。

広河氏には当検証委員会全員でのべ11回のヒアリングを行った。

このヒアリングの項には、「ホットラインの設置」で3件の情報提供があったとあります。

いわゆる企業とは違い、出版業界はフリーランスが多かったり、移動が頻繁だったりするため、ヒアリング対象者を確保するのが難しいのは理解できます。

検証委員も苦労したらしく、「デイズ報告書」の「調査方法」の項目には、ヒアリング調査が難航した理由を5ページにもわたって説明しています(9~14ページ)。

しかし、このヒアリングの項には、45人にどのような形で、どのぐらいの時間をかけてヒアリングを行ったかなどについての詳細はいっさい記載されていません。

次回は、事実認定をどのように行ったのかをみていきます。

 

 デイズジャパン最終検証報告書の検証(1)~(14)


検索

カスタムアーカイブ

セクハラ報道と検証を考える会の記事・写真・音声の無断転載を禁じます。すべての内容は著作権法、国際条約で保護されています。

QooQ