ジャーナリストのための性犯罪報道ガイダンス 4/4 ユネスコの性暴力報道ハンドブック

ガイダンス

ユネスコは国連「女性に対する暴力撤廃の国際デー」に合わせ、2019年11月22日に「女性および少女への暴力に関する報道:ジャーナリスト向けハンドブック(Reporting on Violence against Women and Girls: a Handbook for Journalists)」を刊行しました。
152ページにおよぶこのハンドブックは、情報を提供し、女性に対する暴力の報道の促進・向上のために、世界中の報道関係者を支援する内容と謳っています。

女性に対する暴力を取り上げることは、「人権に関する問題を取り上げることを意味」すると述べ、「偏った表現、ステレオタイプ、偏見」のない報道に務めるよう訴えます。

「ジャーナリストは、沈黙を破り、いまだプライベートとして追いやられている領域からこの問題を可視化する一助を担うことができる」「人々の関心にこたえるジャーナリズムは、女性と少女に対する暴力と闘う本質的な手段」と期待が込められています。

女性に対する暴力の報道はここ数年、世界の多くの国で向上していますが、その一方で、「“家族の問題”“個人の問題”に限定されたり、深刻さや正確な描写に欠け、一般の人々にとってもリスクが高い問題とは解されないセンセーショナルな方法で作り上げられる」と指摘します。

ハンドブックは大きく2部構成になっており、第1章は「10の具体的テーマ」に関する基礎知識および参考情報を提供し、第2章は、報道の仕方、まとめ方、取材方法などについて提案しています。最後に、国際的な宣言、決議、条約のリストが引用されています。

第1章のテーマは、児童婚、女性性器切除、堕胎、人身売買、紛争地の暴力、デートDVや家庭内暴力、そして、「セクシュアル・ハラスメント、性的暴行、レイプ」の項目も含まれます。それぞれのテーマには、定義、真相と実態、説明と背景、報道のアドバイスと推奨される実践方法、小用語集、役立つ資料リストが記載されています。

「1.6 セクシュアル・ハラスメント、性的暴行、レイプ」では、定義として、ハラスメントに着目した「国連事務総長告示 ST/SGB/2008/5」に基づき、特に、「セクシュアル・ハラスメントは、望まない性的誘い、性交の同意の要求、性的特質の言葉または肉体的行為や振る舞い…」としています。

ここでは、セクシュアル・ハラスメントは、暴力、強制、脅迫を伴う不合意の肉体的接触(たとえば、触る、無理矢理キスをするなど)を意味する性的暴行とは区別され、「セクシュアル・ハラスメントは性的暴行の前段階」と記しています。レイプは、「合意のない(暴行や脅迫、または不意を衝いて実行)、男性器、指、物を使った性的挿入である。レイプすべては性的暴行であるが、性的暴行がすべてレイプである必要はない。それゆえ、適切な用語がレイプの場合に使用されるべきである」とし、その認定はそれぞれの国内法において異なる可能性を示しています。

説明と背景では、セクシュアル・ハラスメント、性的暴行、レイプ問題が、2017年、「タイムズ」『ニューヨーカー』「ワシントン・ポスト」の報道がきっかけに関心が高まり、#MeToo運動を盛り上げたと解説します。それにより、何百万の女性が、メディアやエンターテイメント業界、政治家、ビジネス、大学、スポーツクラブ、病院、人権団体など、多くの分野で証言をはじめたとあります。

この項の「レイプとジャーナリズム倫理」では、「ジャーナリストのなかには、倫理にあまり関心がない人がおり、上司からそうした態度をとるよう促されることもある。……ジャーナリストは、仕事の倫理的・義務論的原則に違反せずに、読者、視聴者に、真実を伝えなければならない」と警告します。

報道のアドバイスではまず、「言葉を正確に選択し、適切な語彙を用いる」ことを挙げ、「セクシュアル・ハラスメントは、性的暴行やレイプと同意語ではない。暴力が起きたことを明確にさせ、“性交”という言葉は使わず、“不合意の性交”という言葉を避ける。その代わり、必要に応じて、“レイプ”や“性的暴行”という言葉を使う」とあります。

取材に際しては、「可能な場合は、被害者/サバイバーに発言してもらう」「攻撃者や被害者の関係者はお決まりのことしか言わない(“彼は普通の父親だった”“私たちは一度もそう思わなかった”など)ので、正しい分析を提供できる専門家(医師、精神科医、弁護士、ソーシャルワーカー)に連絡する」ことを勧めています。

また、調査について、「ハラスメント・暴行・レイプが被害者に与えた、短期的および長期的両方の影響を、肉体(ケガ、トラウマ、望まない妊娠、不眠症、その他健康問題)、心理(不安、低い自尊心、うつ)、社会(家族や友人との関係の難しさ、教育の落ちこぼれ)、経済(仕事ができない)の視点から強調する」「社会におけるこのタイプの犯罪の影響も示す(公共の場からの女性の排除、職場の女性不在など)」「個人のケースの報道に限るのではなく、個人の事件が明らかにする、“文化”、搾取、性的モノ化を調査する」「セクハラと性的暴行を助長する具体的な状況を調査する」「セクハラと類似の暴行に対する制度上の措置も調査する。それらは適当か? 被害者は正しく防護されているか? 犯罪を届け出たとき、警察署でどのように扱われたか? 警察官は精神的虐待の程度を理解する訓練を受けているか? 適時に正しいマナーで応対したか? サバイバー支援団体は相応の資金力があるか?」とアドバイスします。

そして、報道内容は、「たとえば、ハラスメントの防止方法と対処を報道する」、届け出る女性は少ないため、「問題を当局に届け出るよう女性を応援する」とあります。

また、名誉棄損の訴訟を考慮し、「証言をダブルチェックし、無罪推定の原則を尊重するよう特に注意する」ことも加えています。

第2章では取材・編集過程での実践的なアドバイスを提案し、「性差別に基づく暴力を、単発の出来事としてではなく、人権侵害として扱う」「全体像を説明する」「語彙に注意する」「見出しを慎重にする センセーショナリズムや軽々しいものにしない」「統計や調査を注意深く分析する」「センセーショナリズムを避けて現実を描く」などの注意点が並びます。さらに、「ジェンダー固有の問題を報道する際、暴力体験の証言を集め、被害者に接近し、その人たちに話すのは、女性記者のほうが効果的」ともあります。

 

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