異例ずくめのデイズジャパン検証報告書がなぜ絶賛されるのか?3/3 推測の表現でセクハラを認定し謝罪を強要

報告書の検証


 

 

第1回第2回につづき、今回は、セクハラ調査(検証)において、事実認定をどのように行うのかをみていきます。

個々の検証はなく一括して事実認定

株式会社JPホールディングス第三者委員会「調査報告書(要点版)」(以下「JP報告書」)には、具体的な事案については書いておらず、アンケート結果(29~32ページ)を示し、調査結果をまとめています(18~24ページ)。

神戸市立小学校における職員間ハラスメント事案に係る調査報告書の概要」(以下「小学校報告書」)は、「事実認定したハラスメント(本調査委員会の認定事実)」(11ページ)の他、「事実認定に至らないが存在した可能性の高いハラスメント」(概要版にはなし)、「ハラスメントに該当しないと判断した行為及び事実認定に至らなかった行為」(概要版にはなし)が書かれています。さらに、「「本件の原因1 ~加害教員らの個人的資質」(12~17ページ)で、4人の加害者それぞれについて、具体的な行為内容が検証され、セクハラの事実を認定しています。

しかし、「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、デイズ報告書)は、被害者のひとりひとりの検証結果を明記していません。本来なら、セクハラ事案をひとつずつ丁寧に事実確認していくのが検証のはずですが、まったくそうした記述になっていないのです。

「検証委員会に寄せられた証言に基づいて被害態様をまとめると」、2004~2007年の間に、17件のセクハラの具体例があったとあります(19ページ)。

性交の強要    3人
性交には至らない性的身体的接触    2人
裸の写真の撮影    4人
言葉によるセクハラ(性的関係に誘われる等)    7人
環境型セクハラ(AVを社員が見える場所に置く)    1人
注釈として、「一人が複数の様態の被害を受けている場合には、それぞれの被害ごとに人数をカウントした」とあり、被害者が実際は何人なのか書かれていません。

しかも、記載されている被害数と証言数が一致せず、証言がさまざまなページに散らばって重複しています。

被害様態では17件ですが、「セクハラに関する証言」(20~24ページ)の項にあるのは15件です。

目次より引用(1ページ)

これ以外にも、「『性的関係への合意』と認知の歪み」の項(50~52ページ)に8件の証言があり、また、「第10章 デイズジャパン社のコンプライアンス」の項にも6件の証言(90~95ページ)が書かれており、これらのいくつかの証言は重複しています。

目次より引用(2ページ)
 

目次より引用(3ページ)

 「セクハラに関する証言」の項の15件以外の証言を合計(重複を除く)すると、「デイズ報告書」に記載されている証言は20件になります。ただ、重複を正確に把握できないため、多少の誤差があるかもしれません。

週刊誌報道に関しては、「週刊誌報道の被害者も含めて、性暴力被害当事者の証言を得ることは極めて困難だった」(24ページ)としながらも、「複数の当事者から直接ヒアリングができた」(25ページ)とあります。しかし、週刊誌記事の被害者8名のうち、何人に直接ヒアリングができたのかは不明です。「性交の強要」3件、「裸の写真の撮影」1件は確認できましたが、その他はどれにあたるのか、明らかにされていません。

(25ページ)

 また、「デイズ報告書」では、実際の被害者と、被害を耳にした第三者の証言が混在しています(「デイズジャパン最終検証報告書の検証(2)  個々の検証はなく一括して証言の信用性が高いと判断したことへの疑問」参照)。

「セクハラに関する証言」の項の証言15件の内訳は、当事者の証言が11件で、当事者以外(相談を受けた、セクハラらしい話を聞いたなど)が4件です。

「性交の強要」の3件はすべて当事者の証言、「性交には至らない性的身体的接触」の2件のうち1件は当事者の証言、「裸の写真の撮影」の4件のうち3件は当事者の証言です。「言葉によるセクハラ」は7件とありますが、証言は8名で、そのうち当事者は3名のみです。そして、環境型セクハラの1件は当事者の証言となっています。 

証言の裏付けなしに事実認定

日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下、日弁連ガイドライン)では、「証拠に基づいた客観的な事実認定」を原則としていますが、「デイズ報告書」は、証言以外の証拠については詳しく示されていません。にもかかわらず、サバイバー側の証言はすべてを「信用性があると認定」(25ページ)しています。

証言の信用性を確認するためには、同一者の証言に矛盾がないだけでなく、客観的事実と齟齬がないか等、複数の情報を分析したうえで判断しますが、どのような基準で、証言の信用性を判断しているのかは不確かです(「デイズジャパン最終検証報告書の検証(3) 性的指向を持ち出してセクハラの事実認定に利用」参照)。

検証委員会が、各々の証言について信用性があると認定した理由は、「証言はいずれも、検証委員会において直接情報提供を受けたもの」「証言者に検証の趣旨を説明した上で聴取したもの」「複数の観点からの質問をする等しても一貫性が保たれたり、客観的な事実にも整合する」など(25ページ)です。「一貫性が保たれ」とありますが、どのような根拠でそう判断したのか、読んでいる側からはわかりません。ここでいう「客観的な事実」が何を指すのかも不明です。個々の証言それ自体だけで判断しているのではないか、という印象を与えます。

1件のセクハラ被害につき、複数にヒアリングを行っているケースは少なく、大部分が、どのように裏を取っているのかも明らかにされていません。

週刊誌報道の被害8件のうち、「デイズ報告書」の証言と符合する2件については、被害当事者と広河さん以外の証言や証拠の記載がありました。しかし、「検証委員会としては、この女性からヒアリングし、いくつかの証拠も確認する」(47ページ)とあるにもかかわらず、「いくつかの証拠」の数や、どのような証拠なのかは記載されていません。決定的な証拠であれば、それを示すだけでセクハラ行為を立証できると思われるのですが、その証拠の内容はいっさいわかりません。

どのケースの客観証拠が確認できたのかも明らかにされていないのにもかかわらず、報道された8人全員の「報道された内容は事実」(25ページ)と結論づけています。検証委員会は、週刊誌報道が、固い証拠や複数の証言をそれぞれ裏づける複数の情報に基づいて書かれていることを前提に、ヒアリングや証拠を集め、事実と認定したようです。しかし、週刊誌報道は確固たる証拠に基づいた調査報道とはいえず(「疑問の多い『週刊文春』が報じたセクハラ記事1/22/2」、週刊誌報道を事実と認定する検証委員会の根拠には疑問が残ります(「デイズジャパン最終検証報告書の検証(4) 週刊誌報道と異なる認定をしながらも”報道は事実であると確認”とする矛盾」)。

根拠に基づかない推測の表現を多用

検証は、当事者に否定的な場合も十分あり得ることです。しかし、「デイズ報告書」では、デイズジャパン社側の人たちの証言は全否定になっています。

特に目立つのが、広河隆一さん側の証言に対する、委員会の主観的な表現です。広河さんには11回ヒアリングをしたとありますが、その様子は、「曖昧な言い方」「強弁した」「不機嫌な表情で黙りこんだ」(94ページ)と描写しています。ちなみに、「不機嫌」という言葉は12回出てきます。

また、「デイズ報告書」には「思われる」「推察される」という言葉が目立ちます(「デイズジャパン最終検証報告書の検証(12) 杜撰さ目立つ事実認定、"思われる・推察される・間違いない・値する"を連発」)。

特に、デイズジャパン社役員の証言に、「それ自体不自然」(92~93ページに3回、97ページ)という判然としない言葉を使って、その根拠はまったく示さずに、証言の信用性を評価し、事実認定をしています(「デイズジャパン最終検証報告書の検証(13) 食い違う証言、今度は「不自然」「自然」を持ち出す杜撰な認定」)。

(92~93ページ)

事実の認定をする肝心な箇所が、別の証言や資料で裏付けを取るのではなく、「それ自体不自然で考え難い」(92、97ページ)、「おそらく」(97ページ)、「思われる」(97ページに2回、100ページ)、「推察される」(97、100ページ)、「ないだろうか」(97ページ)という言葉で結論づけられています。会社役員の証言は、ガバナンスの観点からも、とても重要な論点だったはずですが、調査結果を明確に示すのではなく、検証委員会の推論や仮定を前提とした論理展開になっているのです。

(97ページ)

「JP報告書」でも、推定の表現が多用されていることから、セクハラの事実認定はいかに難しいかがわかります。「JP報告書」の「対象会社におけるセクハラの存否」(22~24ページ)の項では、調査の結果、セクハラの存在が明らかになったと述べながらも、断定はしていません。「自らの性的言動が許容されているものと思い込みやすい状況であったとえいる」「セクハラと評価される行為があったと評価せざるを得ない」「セクハラに該当する可能性がある行為の存在が疑われている」という表現を使っています。

ただ、「JP報告書」の場合、「対象会社におけるセクハラの存否」は調査結果とは別の項に書かれており、調査報告書のルールとされる「調査結果と意見・主観を混同すべきでではない」点は守られています。また、アンケート結果など調査の根拠となるデータも別途添付してあります。

検証報告書で法的責任と謝罪を要求

最後に、セクハラやパワハラの行為者側の法的責任や謝罪についてですが、「JP報告書」と「小学校報告書」は要約版のため、記述があるかは定かではありません。

しかし、「デイズ報告書」では、広河さんが「謝罪はしない」と最終的に結論を出し(106ページ)、これに対し、検証委員会は厳しく非難しています。さらに検証委員会は、「加害者としての自省と責任の履行を公にすることこそが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事というべきであろう」(108、110ページ)とも繰り返し断定しています(「デイズジャパン最終検証報告書の検証(18)【謝罪とは何か?】加害者に沈黙を強いる日本 vs 関係修復を目指す米国」)。

そして、法的責任、謝罪と慰謝を勧告し、広河さんには、「不法行為(民法第709条)と雇用機会均等法11条1項に基づく事業者の措置義務違反に該当し、加害行為を認め、判明した被害者に対して謝罪し、慰謝の措置を講じるべき」とあります(109ページ)。

デイズジャパン社の責任は、「広河氏による違法行為があった場合には損害を賠償すべき(会社3法50条)なので、会社清算においては、被害者らへの損害賠償をどのようにするか検討し、具体的な慰謝の策を講じるよう努力すべき」としています(110ページ)。

役員らには、「被害を抑止できる可能性はあったが、組織内の職責に伴う監視義務を怠ったのであり、サバイバーに謝罪すべき。被害者から申し出があった場合には、誠実に調査して、必要な慰謝の措置を講ずるべき」という内容です(110ページ)。

検証委員会は、広河さんが「謝罪を頑なに拒否する理由」を二つ挙げ、ひとつは「自らの記憶があいまい」(107ページ)であること、もうひとつは、合意へのこだわり(108ページ)とみなしています。

セクハラや性暴力の加害者は、記憶があいまいだったり、自分の行為を容易に理解できなかったりする場合があり、また、メンタルヘルスの問題を抱えている人も多いため、アメリカやイギリスなどでは、心理学や精神分析の専門家がカウンセリングを行い、自分の犯した不正行為について時間をかけて承認していくプロセスをとります。

謝罪は、サバイバーだけでなく、加害者、地域社会の人々の心理状況にもかかわる問題であるため、心理学や精神分析の専門家などを交えて慎重に論議したうえで提案するのが、丁寧なやり方といえます。

心理学や精神分析の専門家ではない調査・検証担当者が、一方的に謝罪を要請する権限を持ちうるのでしょうか。

「日弁連ガイドライン」では、「3 提言についての指針」(3ページ)に、「第三者委員会は、提言を行うに際しては、企業等が実行する具体的な施策の骨格となるべき『基本的な考え方』を示す」とだけあります。デイズジャパン社の場合、検証委員会が調査を行っている時点で解散が決まっていたため、「再発防止の提言」ではなく、「実行する具体的な施策」として、当事者の謝罪や慰謝を提示したのかもしれません。

いずれにしても、謝罪や慰謝料に言及する調査・検証報告書はごく稀といえます。

 

以上、「デイズ報告書」が異例ずくめのセクハラ検証報告書であることをみてきました。

繰り返しますが、セクハラや性暴力を告発する人が増加しているのに伴い、こうした第三者委員会による調査・検証はますます重要になってきます。

疑問点の多い検証は、サバイバーをはじめ、関係する人々を混乱させるだけです。検証は公正かつ正確に実施されるべきであり、そうして導かれた教訓こそが、セクハラや性的暴行の撲滅に役立つといえます。


デイズジャパン最終検証報告書の検証(1)~(14)

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