デイズジャパン最終検証報告書の検証(18)【謝罪とは何か?】加害者に沈黙を強いる日本 vs 関係修復を目指す米国

性暴力の謝罪

これまで17回にわたって、「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、「検証報告書」)の検証を行ってきました。検証報告書の根幹の部分が、推論と決めつけ、杜撰な事実認定に基づいて構成されていることを指摘しました。しかも、今回の問題のきっかけになった『週刊文春』の記事を執筆した田村栄治氏による、広河隆一氏への取材でのやりとりと記事の内容が大きく食い違う箇所が複数確認できました(私たちはその音声も公開していますので、ぜひお聞きください(「週刊文春の広河氏セクハラ記事の取材録音を入手」)。

今回は「検証報告書」で検証委員会が広河隆一氏に要求している謝罪について検証します。

加害者への糾弾に声を上げる人たちは、加害者はどのようにサバイバーへの謝罪をなしていけばいいのか、それを決して口にしようとはしません。そして、もし加害者が医療機関での治療が必要なら、どのようなプロセスを経て社会復帰を実現していけばいいのでしょうか。それも、語りません。

なぜ口を閉ざすのでしょう。

性暴力撲滅を目指すのであれば、今後を視野に入れ、もっと議論すべきでしょう。

そのための材料を今回は提供できればと思っています。セクシャルハラスメント(以下、セクハラ)に関連する、アメリカなどで取り入れられている謝罪のあり方を紹介していきます。

「加害者としての自省と責任の履行」とは具体的に何を求めているのか?

検証報告書によると、広河隆一氏は「謝罪することは週刊誌報道のすべてを認めたことになり、更なるバッシングを受けるだけ」(106頁20行目)という理由で、「謝罪はしない」と最終的に結論を出しています。これに対し、検証委員会は厳しく批判しています。

さらに検証委員会は、「加害者としての自省と責任の履行を公にすることこそが、広河氏にできる、社会的意義ある最後の仕事というべきであろう」(110頁7行目、重複108頁36行目)とも断定しています。

こうした検証委員会の謝罪要求は、妥当なのでしょうか? そもそも、「加害者としての自省と責任の履行」とは具体的に何をどのようにすることを意味しているのでしょうか。

セクハラや性暴力の謝罪は非常に難しく、各国でさまざまな議論がなされています。

謝罪は、被害者だけでなく、加害者、コミュニティの心理状況にもかかわる問題であるため、心理学や精神分析の専門家、性暴力などに詳しい司法関係者らが、“正しい謝罪”の方法を模索し、意見を交わしています。

デイズジャパンの検証委員のように、心理学や精神分析の専門家ではない人が、一方的に謝罪を申し付けるというのは、海外ではあまり例がないようです。

「修復的司法」という考え方

たとえば、サバイバーの一人の言葉をまずは紹介します。

ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏の有罪判決を受けて、ニューヨークタイムズ紙(以下、NYタイムズ)の最初の記事(2017年10月5日)で告発したサバイバーのひとり、女優のアシュレイ・ジャッドです。

ジャッドさんは「ワインスタイン氏が修復的司法プロセスで罪と向き合うことを望む」といった発言をしたそうです。「この“より人間的”代替手段のほうが刑事司法システムより満足度が高い」と語っています。

NYタイムズは3月2日に性犯罪の修復的司法に関する記事を掲載しています。

修復的司法とは、被害者、加害者、コミュニティが、相互の関係修復と再生を目指すプロセスです。この修復的司法については、女優のローラ・ダーンさんが2018年のゴールデングローブ賞の受賞スピーチで触れています。ダーンさんは、被害者と加害者の両者に必要な手段として使用を呼びかけていました。

NYタイムズの記事によると、刑事裁判でワインスタイン氏の有罪が確定したのは、#MeToo運動の大きな成果でしたが、性暴力事件の圧倒的多数が訴訟にはならず、ジャッドさんのように、加害者が説明責任を果たすことによる被害者の傷の回復を通して、被害者を癒し、再犯を防ぐよう、策定された修復的司法を求める被害者もいるとあります。

修復的司法については、後で詳しく述べるとして、まず、週刊誌報道の後の広河隆一氏の謝罪に対するメディアや知識人の反応について、ワインスタイン氏と比較してみましょう。

谷口真由美氏は「勉強」の言葉を「言い訳」と切り捨て

NYタイムズがワインスタイン氏のセクハラを報じた最初の記事(2017年10月5日)には、本人の謝罪文も掲載されました。

その謝罪文は後に内容が不十分だとして批判されましたが、NYタイムズの記事では、謝罪文の評価はしていません。

ワインスタイン氏は、「過去の同僚に対する態度が多大な苦痛をもたらしたことを十分に理解し、それに対し心から謝罪します。……いまは自分自身について学び、自分のなかの悪に打ち勝つことにあります。過去1年以上にわたり、私はリーサ・ブルームさん<訳注:弁護士>に個人指導を依頼し、……セラピストを紹介され、仕事を休んでこの問題に真剣に取り組む計画です」と謝罪しています。

しかし、60~70年代の男性優位文化を言い訳にしたり、セカンドチャンスを懇願したりするなど、難点が目立ち、悪い謝罪として、後に複数のメディアで非難されました。

ただ、「自分自身について学び……個人指導を依頼し…」といったことでの批判はみられません。これに対して、「メディアにおけるセクハラを考える会」の代表で大阪国際大学准教授の谷口真由美氏は広河氏にこう述べました。

「今になって勉強しています、などと広河氏の言い訳を述べているだけで…」(BuzzFeed, 2019年3月24日、この発言は現在削除されています)

加害者に沈黙を強いる立ち位置です。

一方、アメリカでは、謝罪はあくまでもサバイバー本人に向かって行うものであるという基本的な考え方で、それを十分ふまえた言葉や表現が適切に使われているかどうかが重要なファクターです。

もっとも、日本とアメリカでは謝罪の考え方が異なるため、一概には比較できません。

それを次に見ていきましょう。



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