前回「【謝罪とは何か?】加害者に沈黙を強いる日本 vs 関係修復を目指す米国:デイズジャパン最終検証報告書の検証(18)」は、被害者、加害者、コミュニティが、相互の関係修復と再生を目指す米国の事例を紹介してきました。
今回は加害者の「謝罪」をめぐる考え方について考えていきましょう。
「後悔」「責任」「方法」
米ピッツバーグ大学のカリーナ・シューマン准教授の考え方を紹介しましょう。
シューマン准教授は2014年、社会心理学の専門雑誌で「より良い謝罪」の研究論文を発表しました。シューマン准教授は、良い謝罪には3つの“核”となる要素があると述べています。
ひとつは、謝罪の言葉で自責の念を表すだけでなく、後悔を表現すること。そして、自分の責任であると認めること。最後に、自分が引き起こした問題の解決や修復に向けてできる方法を申し出ることです。
この考えのもと、CNNのサイトの記事「The right (and wrong) way to apologize」では、セクハラを告発された3人、NBCの朝番組の元司会者マット・ラウアー氏、俳優のケビン・スペイシー、コメディアンのルイス・C・Kの謝罪文の不備を指摘しています。
『週刊文春』の報道後の2018年12月26日、広河氏はお詫びのコメントを発表しています。
よく注意しなければならないのは、この文面がサバイバーにとって誠実であるかといった視点での議論はほとんどなかったことです。この「謝罪」によって、すべてを認めたとされ、バッシングは強まっていったのです。
検証委員会や知識人は、広河氏の謝罪を要求していますが、具体的にどのような謝罪を求めているのかは、明確にしていません。
それでは、「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、検証報告書)をみていきましょう。
再度の調査の必要性
検証委員会は、「第 12 ハラスメントの責任履行の勧告」「1.広河氏の責任」「(1)判明した被害者への謝罪と慰謝」(109頁5行目~19行目)で、「広河氏は加害行為を認め、判明した被害者に対しては、謝罪し、慰謝の措置を講じる」よう要求しています。
検証委員会が認定した広河氏の性的加害行為は、(a)デイズジャパン社の複数の関係者に対するセクハラ、(b)同社や広河事務所の関係者に対する環境型ハラスメントです。
これらは、直接の被害者に対する「不法行為(民法第709条)」と「雇用機会均等法11条1項に基づく事業者の措置義務の違反」に該当するとしています。
雇用機会均等法の措置義務違反は理解できますが、「判明した被害者」がいったいどのケースなのか判然としません。どのサバイバーに対するどの行為が「不法行為(民法第709条)」に該当するのかは定かではないのです。「不法行為(民法第709条)」と批判していながら、どのケースがどのように「不法行為(民法第709条)」なのかを明確にしていません。
これまで私たちが検証報告書を検証してきたように、検証は杜撰であり、検証報告書に記載された15名+数名の証言者全員をセクハラと認定できるのか、再度調査が必要だと思います。
検証委員会の謝罪要求に広河氏は応じず、その「検証作業期間全体を通じた状況」(107頁35行目)は、「第 11広河氏の現在の考えと検証委員会の意見」(106頁11行目)の「1『謝罪のための事実確認』を求める理由」で知ることができます。広河氏は「供述態度が全体に極めて不誠実」(107頁32行目~37行目)だったと酷評されています。
「不誠実」といった主観的表現を使用して事実認定を行う検証委員会の問題点は以下の回でも採り上げています。ぜひお読みください。
「主観的文体を駆使して、結論の正しさを印象操作か:デイズジャパン最終検証報告書の検証(14)」
「食い違う証言、今度は『不自然』『自然』を持ち出す杜撰な認定: デイズジャパン最終検証報告書の検証(13)」
「杜撰さ目立つ事実認定、『思われる』『推察される』『間違いない』『値する』を連発:デイズジャパン最終検証報告書の検証(12)」
「間接証言(伝聞)と裏付けなしの事実認定、メディアを使って正当性を主張:デイズジャパン最終検証報告書の検証(11)」
このように検証委員会、セクハラ証言が事実であるかという検証が終わっていない検証作業期間中から、広河氏に謝罪を要求していたようです(106頁13行目)。
次回は検証委員会がどのように広河氏に「謝罪」を求めていったのかをみていきましょう。