デイズジャパン最終検証報告書の検証(13) 食い違う証言、今度は「不自然」「自然」を持ち出す杜撰な認定

報告書の検証

前回の「杜撰さ目立つ事実認定、『思われる』『推察される』『間違いない』『値する』を連発:デイズジャパン最終検証報告書の検証(12)」は、推測表現を多用して事実であるかのように読者に印象付ける「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、「検証報告書」)の問題点を紹介しました。

「検証報告書」では、「(2)セクシャルハラスメントに関する証言」(20頁1行目から24頁17行目まで)の15件の証言以外にも、「第10 デイズジャパン社のコンプライアンス」の「3 ハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応」(90頁16行目)に複数のセクハラ証言が記載されています。重複しているものがあり、なぜ別の項に証言が記載されているのかは説明がなく、まったくわかりません。

今回は、「第10 デイズジャパン社のコンプライアンス」の証言のうち、「(4)女性社員による、守屋氏への告発」(92頁3行目~12行目)に出てくる、情報提供をしたデイズジャパン社社員(R)(以下、Rさん)のケースを検証します。

これは、「情報提供をした社員(R)と、D及び守屋氏の証言は明らかに食い違う」(92頁28行目)ため、複数にヒアリングしたケースになります。

このケースだけ、「情報提供をした」とあり、それが他のヒアリングとどう違うのか判然としません。

この項の「デイズジャパンの対応」(92頁13行目)に、「この件については、広河氏以外の役員が広河氏のセクシャルハラスメントを具体的に知り得たはずであるということを直接根拠づける、数少ない重要な情報」なので、「D及び守屋氏に確認した」とあります。

この記述から、広河氏のセクハラを別の証言から根拠づける情報は、数が少なかったのがわかります。他の多くの被害証言の根拠づけが脆弱だったことが、かえって浮き彫りになった記述だといえるでしょう。

では、食い違う証言の「どちらの証言の信用性が高いといえるか」(92頁28行目)をどのように検証委員会が調査していったのでしょう。

情報によると、アウレオ社の守屋氏の秘書Dさんが当時在籍していた社員全員と個人面談した際、Rさんは「自分が受けたセクハラについて伝え、広河氏にそのような間題行動がある旨を報告し」、Dさんから「『話を持ち帰ります。……重大なことだと思います』等返答された」とあります。

その後Dさんから、セクハラはRさんの「『気のせいであり、自意識過剰のせいなので、対処はしません。以上が守屋の答えです』と告げられた」というものです。

このRさんの証言について、検証委員会は、「Dの説明の信用性より明らかに高い」(93頁26行目)と判断しています。その理由は、全く別個にヒアリングして相互に知らない、Rさんと同時期前後に在籍していた2名の元スタッフから、「『Rさんは、広河さんがセクシャルハラスメントをしていたことを知っていて、悩んでいた』と証言が寄せられ」、これがRさんの「証言内容とも符合する」(93頁20行目~27行目)からだとしています。

では、Dさんはどうでしょう(92頁17行目)。

Dさんの証言によると、Rさんともう一人の女性社員から、「『セクシャルハラスメント』という言葉が出たことはあ」り、この言葉を聞いたのは「その時のみ」と証言しています。そして、「もごもごした説明で、……全くわからなかった」ため、「その時すぐには守屋に何も報告しなかった」のですが、しばらく経って守屋氏に、「女性社員から、『広河さんがセクシャルハラスメントをしていた』という言葉を聞いた」と話したら、「『どうしてその時すぐに言わなかったの、そんなの名誉棄損じゃないの』と言われた」と書かれています。

一方の守屋氏はどう証言したのでしょう。社員がDに述べた経緯も、上述のDが検証委員会に説明した経緯も「記憶に無い」と証言しています(91頁25行目)。このケースにおける守屋氏の対応についての評価は、「役員らの監視義務の履行状況」(99頁25行目~38行目)で重複されています。

不思議な言葉で結論を導く

アウレオ社の役員で守屋氏の秘書Dは、「『デイズジャパンにおける業務は、広河氏を支えたいと考えていた守屋の指示を受け、守屋に報告を行っていた』と述べ」ています。

確かにDはそのように述べましたが、それが事実なのかどうかを別の証言や資料で確認しなければなりません。何度も書いて申し訳ないですが、これは調査や取材の基本です。

では、検証報告書を読んでみましょう(93頁8~12行目)。

「日常的に守屋氏の指示を受け、報告義務を果たしてきたDが、『広河氏のセクシャルハラスメント』という言葉を耳にして、守屋氏にすぐに報告しなかったということはそれ自体不自然で考え難い」

「仮に本当に『もごもご言うばかりで何を言いたいのかわからなかった』ということであったとしても、『セクシャルハラスメント』という言葉が出たのにこれを、日常的に指示を受け報告していえる<原文ママ>上司に何も伝えなかったというのはそれ自体不自然」

「それ自体不自然で考え難い」「それ自体不自然」という結論の導き方はあり得ません。

他はどうでしょう(93頁12~17行目)。

「『セクシャルハ ラスメント、と言っていましたが、もごもご言うばかりで何を言いたいのかわからなかったのですが』とありのままに報告するのが自然であろう」

「社員らの説明が『もごもご言うばかりで何を言いたいのかわからなかった』というのも、理解できなかったのであれば詳しく聞き直せばいいだけのことであり、そうせず放置したというのはそれ自体不自然」

こちらも、「自然であろう」「それ自体不自然」です。

そして、これらの理由から、「『わからなかったからそのままにした』というDの説明はそれ自体において不自然で信用性が低いと言わざるを得ない」(93頁10行目)と結論づけています。

検証委員会は、「自然」と「不自然」という表現を使って、Dの証言の信用性を評価しています。この「検証報告書」には、“不自然で考え難い”といった表現が頻繁に出てきます。しかし、その根拠がまったく示されていません。

ハラスメントの有無を認定する責任の重い仕事を引き受けているにもかかわらず、事実の認定をお手軽に片付けているのです。

「事実」と「思い込み」と「推測」の混在

ただ、検証委員会は、Dの信用性が低い理由は挙げています(93頁11行目~19行目)。

ある女性ボランティアのハラスメントを「守屋氏もDも何も対応せず、握りつぶされてしまった」とRさんと同時期前後に在籍していた別の社員が述べていること、Dが社員の人事について広河氏の希望する方向に誘導する動きをしていた具体的なエビデンスを検証委員会は入手していること、Dの行動は「このような他の社員による情報提供とも符合」することなどです。

ところが一転、守屋氏の証言の信用性については、信用性を判断した根拠が明記されなくなります。単に、Dが「いったんは深刻なものと受け止めて守屋氏に報告したが、守屋氏がそれを信じなかった、あるいは重要と受け止めなかったため、情報提供した社員に対して『何も対応しない』と 回答したと考えるのが自然である」(93頁29行目)とあるだけです。

報告書を読んでみましょう。

守屋氏が「何も対応しなかった」(99頁25行目)ことについては、「理由は不明」とし、検証委員会は、守屋氏がヒアリングで、「セクシャルハラスメント被害を訴えている女性達について『ジャーナリストを目指す人だったら、はっきり意思を主張してほしかったと思う』『いまだに私は信じられないのと、その時はその人は広河さんを好きだったんじゃないのと思ってしまう』」(99頁28行目)と発言したことを根拠に、以下のように書いています。

「広河氏が女性の意に反する性暴力をふるったということ自体、いまだに十分には信じられないというような態度であった」ため、「当時もそのような感覚で、性被害の告発自体を軽視していた可能性がある」「広河氏の業績への敬意が強かったので、『こんなに素晴らしい人がそのようなことをするはずがない』と思いこみ、事実ではないだろうと決めつけ、それに反する言菓を聞きいれる発想が無かった可能性もある」

ここでも「可能性」という言葉が登場します。そして、こう結論づけています。

「どのような理由であれ、社員から、広河氏の『セクシャルハラスメント』という言葉を聞かされた以上、その社員や広河氏に事情を確認したり再発防止策を具体的に講じる等すべきであった」

ただ、「事情を確認したり再発防止策を具体的に講じる等すべきであった」という結論部分は正しいでしょう。実際、守屋氏はセクハラを訴える声を聞いていたことは認めているのですから、そこは企業としてのガバナンスが欠落していたと言わざるを得ません。

しかしながら、それが一足飛びに「セクハラがあった」という事実の認定にまでは至らないことはお分かりでしょう。調査の結果、被害を訴える人の意に沿わない事実が見つかったり、本人も知らない事実が判明したりすることも十分にあるのですから。それが調査です。

「自然」「不自然」という判然としない言葉を多用し、別の証言や資料で裏付けが取れない箇所は「可能性」という言葉を持ち出す。これまでの検証で、検証報告書には「事実」と「思い込み」と「推測」が混在しながら構築物が建設されていることが判明しています。



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