※注意:今回の記事は、セクハラの描写等を含むため、不快な気持ちになる可能性があります。
※性暴力に遭った方々の表記は、「被害者」ではなく、「サバイバー(生還者)」にしました。
前回の「デイズジャパン最終検証報告書の検証(11) 間接証言(伝聞)と裏付けなしの事実認定、メディアを使って正当性を主張」では、当事者からヒアリングをしないまま、主観的表現を駆使して事実であるかのように読み手に印象づける手法の問題点を検討してきました。
今回も「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、「検証報告書」)の「第10 デイズジャパン社のコンプライアンス」の「3 ハラスメントへの抗議とデイズジャパンの対応」、「(5)ボランティア女性からの抗議」(93頁34行目~41行目)について検討していきます。
アウレオ社の守屋氏と、その部下でデイズジャパン社に出向していたDの証言をみていきましょう。
サバイバーが主張する被害の概要を再掲します。
(a)デイズジャパン社女性社員A(以下、女性社員A)の証言によると、当事者が同行した他のボランティア女性(以下、ボランティアB)に相談し、ボランティアBから自分に連絡があったと書かれています。
(b)女性社員Aは、「被害女性の言い分を広河に伝え、……『謝罪すべきですよ』ということを伝え」(93頁37行目)、「広河氏は被害者が負担していた渡航費に相当する程度の金員をポケットマネーから支払った」(22頁2行目~4行目)とあります。
(c)また、女性社員Aは、「アウレオ社のDに本件について話した」が、「他の役員に直接伝えることはなかった」(93頁40行)、「広河さんはなんでも守屋さんに相談していたから、この件も広河さんから守屋さんに伝わっているのではないかと思っていた」(94頁20行目)と証言しています。
杜撰な事実認定
上記の被害の訴えに対して、検証報告書の内容を紹介します。アウレオ社の守屋氏と、その部下でデイズジャパン社に出向していたDはどのように証言しているのでしょうか。
(d)検証委員会がヒアリングしたところ、Dは「女性社員からこの件について聞いた」と認め、「守屋氏に報告した」が、「『守屋がなんと言っていたかは覚えていない』と述べる」とあります。
(e)守屋氏は、「多分この時のことだろう」「女性が『広河さんから抱きつかれた』と言っていたと、Dから聞いた」(94頁16行目、重複100頁1行目~23行目)、「これについて広河さんと直接話をしたことはない」(94頁17行目)と述べています。
(f)さらに、守屋氏の対応については、「4 役員らの監視義務の履行状況」の「(5)守屋監査役」「イ 3(5)の件について」(99頁40行目~100頁23行目)にもあり、そこには、Dから報告を受けたものの、「何か役員として対応したことはなかった」(100頁22行目)と書かれています。
まず、(d)について注目すべきは、Dは、女性社員Aから聞いて被害の訴えについて知っていたのであり、セクハラが実際にあったのかどうかを知っていたわけではないという点です。事実部分は「Dは、女性社員Aから聞いて被害の訴えについて知っていた」になります。その被害がセクハラであると認定するには、別の事実を提示しなければなりません。
次に(e)について。まず事実なのは、①「女性が『広河さんから抱きつかれた』と言っていたと、Dから聞いた」、そして、②このことについて「広河さんと直接話をしたことはない」という2点です。セクハラが実際にあったことを守屋氏が確認してはいなかったということです。ただし、被害の訴えがあったにもかかわらず、会社として何らかの対応をしなかった点は、企業ガバナンスの観点からも責められるべきでしょう。
しかしながら、被害の訴えがあったというだけで、セクハラがあったかどうか、その事実を確定するためには、さらに別の事実を取る必要があります。なぜならば、守屋氏やDの証言から分かるのは、「被害の訴え」があったということだけです。にもかかわらず、検証委員会は「事実である」と認定しました。
「思われる」「推察される」「間違いない」「値する」という手法の問題性
さて、監査役の守屋氏は、株式会社アウレオの代表取締役(8頁)で、デイズジャパン社の設立時からの株主であり(17頁)、経済的に同社および広河氏を支え続けてきました。
守屋氏はヒアリングで、「相手がどう受け止めるかがこちらの思惑と違う場合もある」「広河さんは、『同意の恋愛』というようにとらえていたのだと思う」といった発言をしています。
「役員の監査義務の履行状況」(99頁23行目)では、守屋氏は「経済的に大きな支援を継続するほど広河氏の業績への経緯が強かったので、『こんな素晴らしい人がそのようなことをするはずがない』と思いこみ、事実ではないだろうと決めつけ……た可能性もある」と判断されています。
検証委員会は、守屋氏が「セクシャルハラスメントについて無理解」とみなし、次のような見解を述べています。
「守屋氏は、広河氏がハラスメントなどするはずがないという思いこみが強固だったと思われる」
「広河氏の業務の妨げになるようなハラスメント告発については、耳に入っても、『広河さんの仕事の前にはたいしたことではない』というバイアスがかかり、告発を無視する行動をとったのではないかと推察される」
「少なくとも、監査役として、社内、とりわけ代表取締役に違法行為やハラスメントがないかについて注視し、あれば是正しようという姿勢は全くなかったことは間違いない」
「セクシャルハラスメントについての一般的な無理解と広河氏への敬意を背景として、明らかな間題行為について認識しながら何も対応しなかったことは監査役としての立場と職責に照らし強い非難に値する」
これらは、「思われる」「推察される」「間違いない」「値する」といった言葉を使っており、確固たる根拠に基づいた検証といえるのかどうか疑問です。
前回と今回検証した2件は、当事者が直接に被害を訴えたわけではないらしく、彼女たちにヒアリングを行ったとははっきり書かれていません。当事者不在でセクハラを検証するのは珍しいケースだといえ、妥当なのでしょうか。しかも、検証委員会のヒアリングには偏りがあり、内容の分析には推測の表現が多用されています。
こうした形でセクハラを認定するのは、無理があり、説得力に欠けるのではないでしょうか。