デイズジャパン最終検証報告書の検証(10) 重視したのは「当事者の納得」、裏取りの痕跡なし

報告書の検証

これまで検証してきたように、「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、「検証報告書」)に記載されている証言は、裏づけが不十分なまま事実認定に利用されている傾向が顕著です。調査手法の基本を逸脱しています。

今回は、もう一度、証言と裏取り、ヒアリング数について復習しておきましょう。

 「当事者が納得できる表現」とは?

2020年2月14日に発売された『週刊金曜日』に、検証委員の太田啓子さんのインタビュー記事が掲載されました。もっとも注目されるのが、「ある立場」に立って報告書が記述されていることを検証委員自身が認めている点です。太田さんはこう説明しています。

「当事者の納得が大事だから、可能な範囲で当事者の方が納得できる表現で世に残そうとしたこともあって」

太田さんはインタビューの中で「『初めてジャーナリズムを感じた』というありがたい評価をしてくださった」と語っていますが、「当事者の納得」に価値を置くのは、ジャーナリズムの基本である、客観性の原則を外れています。これがジャーナリズムに値するかどうかは、ジャーナリストという仕事をしている方々にその判断をゆだねます。

さらに、「弁護士ドットコムニュース」にも登場し、「性被害だけじゃない!『やりがい搾取』も浮き彫りに…デイズジャパン検証委員・太田啓子弁護士に聞く」で饒舌に語っています。

検証報告書は広河隆一氏に「独善的で自己中心的な弁明を公の場で行うことは控え」(109頁34行目)るよう求める一方で、検証委員は様々なメディアで自身の考えを開陳しています。「当事者の納得」に重きを置いて報告書を作成したのであれば、「一方の代理人」としての役割を従順に遂行しているかもしれませんが、検証を担当した人間としては軽率な行動と言えるでしょう。

検証は、当事者に否定的な場合も十分あり得ることです。また、当事者が知ること以上のことが判明することもあります。それが調査です。

ヒアリング数のあいまいさ

そもそもこの検証報告では、ヒアリングに応じた人の数について明確に記していません。

検証報告書の「2 調査の方法」「(2)ヒアリング調査」(8頁17行目)の記述によると、郵便によるヒアリングに関しては、ヒアリング対象として把握できたデイズジャパン社および広河事務所の就労者(ボランティアなども含む)は「117名」(「 」の数字は報告書に明記、以下同)で、そのうち連絡先が判明したのは「39名」。宛先不明等で配達不能が「10名」とあり、宛先が確定したのは29名となります。それにメールアドレスが判明した「6名」を加え、書面およびメールによるヒアリング打診人数は35名と算出されます。

DAYS JAPAN最終号発行(2019年3月2日)までに書面またはメールで回答があったのは「7名」で、うち「2名」は協力拒否とあり、この時点でのヒアリング協力者は計5名です。残り「22名のうち何名か」は、その後、協力があったとありますが、郵便によるヒアリングの最終的な協力者数は検証報告に記載されていません。

検証委員会からの打診以外に、デイズジャパン社ホームページに設置したホットラインでの情報提供者が「3名」あったとの記載があります。

ヒアリング実施状況(9頁11行目)で、「最終的なヒアリングの実施人数は合計45 名」とあり、その内訳は次のようになっています。

デイズジャパン社元社員(アルバイト含)  11名
広河事務所元社員(アルバイト含)  4名
元ボランティア  4名
元インターン生  1名
小計(おそらく証言者)  20名

アウレオ社出向社員  2名
役員及び元役員(広河氏含)  5名
DAYS JAPAN に関わったフリーの編集スタッフ  4名
デイズジャパン社顧間税理士  1名
デイズジャパン社顧問社労士  1名
その他(ジャーナリスト等)  12 名

合計  45名

検証報告に記載されている証言の数と、元社員・元ボランティア・元インターンといったヒアリング協力者の数はほぼ一致します。もっとも、その証言の裏付けとっているのかについては、検証報告には特に記述がありません。

また、検証報告は全体を通し、定性的な表現が多いのですが、ヒアリング数についても、「複数の当事者」(25頁)、「相当数の関係者」(27頁)、「証言の数の多さ」(29頁)、「複数」(100頁)との表現が多いため、具体的な数がわかりにくいのが特徴です。これらすべて、できるだけ実数(具体的な人数)を明らかにすべきだと考えます。

それでは、証言がどのように裏付けされたのか、検証します。

当事者以外の詳細な証言の記述は2件のみ

「(2)セクシャルハラスメントに関する証言」(20頁1行目から24頁17行目まで)の証言は15件です。(「個々の証言の裏付けをせずに15件まとめて信頼性が高くセクハラは事実と認定:デイズジャパン最終検証報告書の検証(7)」)

検証報告書には、この15件以外にも、「第10 デイズジャパン社のコンプライアンス」の「3 ハラスメントへの抗議とデイズジャパン社の対応」(90頁16行目)に複数のセクハラ証言が記載されています。「(2)セクシャルハラスメントに関する証言」と重複しているものがあります。

これらを合計すると、証言は20件になります。ただ、こちらでは、重複を正確に把握できないため、多少の誤差があるかもしれません。

この20件の証言のうち、当事者以外の証言を詳しく書いているのは、2件のみです。1件は、前回検証したケースです。(「『食い違う』証言を裏取りせず『被害』を認定 検証委の役割逸脱の可能性も:デイズジャパン最終検証報告書の検証(9)」)

もう1件は別の回で検討しますが、「デイズジャパン社女性R」(92頁3行目~)の証言です。

すでに「増加する海外のセクシャルハラスメント報道:裏づけや言葉遣いなど報道規約を設定して正確な報道を目指す」で紹介したように、例えば、ニューヨークタイムズの編集者(女性・ジェンダー専門)は、「セクシャルハラスメントなど性被害を報じるには、当事者以外に2人の証言者の裏づけが必要」で、彼女が9人の女性から性暴力を告発された映画脚本家の記事を報じた際、「少なくとも27人の異なる人に話してもらった」と述べています。(「How Journalists Corroborate Sexual Harassment and Assault Claims」)

ニューヨークタイムズの方式に準じ、20件の証言を当事者の証言とするならば、少なくとも40人の別のセクハラ証言が必要です。

裏づけの痕跡なし

さて、20件の裏づけは、具体的に次のようになります。

「性交の強要」3件は週刊誌で報道され、すべて当事者のみの証言で、裏をとったのか不明です。(「性的指向を持ち出してセクハラの事実認定に利用:デイズジャパン最終検証報告書の検証(3)」、前述「検証(7)」)

「性交には至らない性的身体的接触」2件のうち1件は当事者の証言ですが、裏取りをしたことは書かれていません。(前述「検証(7)」)

もう1件の当事者以外の証言、「ボランティアにキスをしようとして」については、次回検証しますが、当事者へのヒアリングの有無が不明です。これは、「(5)ボランティア女性からの抗議」(93頁32行目)と重複するようです。

「裸の写真の撮影」4件のうち3件は当事者の証言です。2件は「性交の強要」と重複し、サバイバー以外の証言は明記していません。

1件は、放射能汚染地域に行ったケースで、「(6)アシスタント女性からの抗議」(94頁26行目)と重複し、複数の証言があります。(前述「検証(9)」)

もう1件の当事者以外の証言は、「裸の写真を複数見つけてしまった」(22頁13行目~28行目)というもので、次回検討しますが、ヒアリング対象者が不明です。

「言葉によるセクハラ」は7件とありますが、証言は8名で、そのうち当事者は3名のみです。(「15件の証言のうち当事者以外の証言があるのは3件のみですべてセクハラと認定:デイズジャパン最終検証報告書の検証(8) 」)

この8件はどれも、証言者の話だけで、裏取りをしたことが書かれていません。

「言葉によるセクシャルハラスメント」の1番目は、「(1)ボランティアの男女からの抗議」(90頁22行目)と重複します。2番目は、「(2)男性社員からの抗議」(91頁3行目)に重複します。

そして、環境型セクハラ1件は当事者の証言のみとなっています。(「環境型セクシャルハラスメント認定にいたる事実確認についての疑問:デイズジャパン最終検証報告書の検証(1)

さらに、「(3)女性社員からの抗議」(91頁12行目)は、別の回で検討しますが、当事者以外の証言は記載されていません。

検証委員会は、45人にヒアリングを行っただけで、20件近いケースをすべてセクハラと認定しています。広河氏やデイズジャパン社側の人たちの証言は全否定になっています。「当事者の納得」を重視した以上、それは予想できた結果です。ある意味、仕方がないことです。

ですが、少なくとも、検証報告書が妥当で公正なものであったかどうかを、読んだ人が検証できるようには書いてほしかったです。弁護士の世界では通用するかもしれませんが、研究やジャーナリズムの領域ではそれはフェアではありません。

次回は、さらに残りの証言について検討をつづけます。



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