デイズジャパン最終検証報告書の検証(5)  米ニューヨークタイムズは「レイプ」と「合意のない性関係」を区別

報告書の検証

※注意:今回の記事は、セクハラの描写等を含むため、不快な気持ちになる可能性があります

※性暴力に遭った方々の表記は、前回記事から「被害者」を「サバイバー(生還者)」に変更します。

前記事「週刊誌報道と異なる認定をしながらも『報道は事実であると確認した』とする矛盾:デイズジャパン最終検証報告書の検証(4)」では、週刊誌で“レイプ”と報じた証言が、「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、「検証報告書」)には、合意のないまま「性行為に応じさせられた」と変わっていたことについて検証しました。

今回は、海外での性暴力報道における注意点や規制を紹介し、日本の一部の週刊誌など、ブレーキの効かないセクハラ報道の問題点をさらに検討していきます。

まず、ここでもう一度、週刊誌報道が見出しに“レイプ”を使ったメディアのセンセーショナリズムの問題について考えます。

「使用する言葉」をめぐり、「議論する」米国と「議論しない」日本

セクシャルハラスメント(以下、セクハラ)や性暴力の報道においては、使用される言葉が非常に重要とされています。

#MeToo運動のきっかけをつくったニューヨークタイムズでさえ、セクハラの記事を作成する際、どのような言葉を使うべきか迷ったと告白しています。

編集部がどう対応したかについて、ニューヨークタイムズ電子版に、「性暴力をどう書き表したか」(2017年10月31日付)と題した記事が掲載されています。

ニューヨークタイムズでは、セクハラ記事に“レイプ”という言葉を使わず、“合意のない性的関係”などを使用してきました。読者からは、なぜ“レイプ”を使わないのか、といった疑問の声や、「“レイプ”ではなく“合意のない性関係”を使うことで、女性への性暴力を矮小化している」などの意見があったといいます。この記事は、こうした読者の質問に回答する形で書かれています。

ニューヨークタイムズは、この件に関しては簡単に回答できないため、複数のジャーナリストと弁護士らが議論・分析したとあります。次のような説明です(注:意訳しています)。

「記事に用いる言葉を選ぶときは、言外の意味も考慮します。性暴力を表す言葉のなかでも、“レイプ”は最も強烈で、刑事司法制度と深く関連しており、重大な犯罪行為のひとつです。刑事犯の場合は“レイプ”という言葉を使いますが、我々の記事で扱うケースが刑事裁判で処理されることはあまりなく、そうしたときに、凶悪な犯罪に非常に類似する言葉の使用には慎重であるべきだと考えます。」

「我々は、(ハーヴェイ・)ワインスタイン氏のセクハラ行為を書き表すうえで、読者にできるだけ多くの情報を提供するために、徹底的に正確に伝えようと心がけました。彼の行為の酷さを軽減しようとしたわけではありません。しかし、振り返ってみると、少なくとも一度は“レイプ”という言葉を使ったほうがよかっただろうと思います。」

「刺激的な文章や言葉を使ってある種の行為を書き表したら、もっと面白い読み物になるのかもしれません。でも、どう書いて説明するかを決めるときには、記者が知りえたことを反映しても、それ以上のことをほのめかさない言葉を使うことにしています。記者および弁護士は、真実に即した、明白な記事を作る作業をしているのです。」

もちろん、こうした考えをめぐる賛否はあるでしょう。重要なのは、どのような言葉を選択したのなら、性暴力の問題を公正に取材・報道できるのかについて、議論をしていることです。「レイプ」=「合意のない性関係」とみなす人たちもいますが、逆に、こうした態度が性暴力の被害と加害の実態を公正に判断する姿勢を遠ざけ、問題点を隠蔽してしまう危険性があることを知るべきでしょう。

日本でも、“レイプ”(=強かん)は犯罪行為です(刑法177条 強制性交罪)。このニューヨークタイムズの基準に照らして考えてみましょう。

前記事で書いたように、「検証報告書」は、サバイバーの証言として、「連日のようにホテルで性行為に応じさせられた」(20頁14行目)を掲載し、「検証委員会において直接情報提供を受けたものであり、(略)複数の観点からの質問をする等しても一貫性が保たれたり、客観的な事実にも整合するなど、信用性があると認定したものを記載した」(25頁2~4行目)としています。

以前の記事「個々の検証はなく一括して証言の信用性が高いと判断したことへの疑問:デイズジャパン最終検証報告書の検証(2)」で指摘したように、「検証報告書」は、その妥当性を客観的に評価、検証できるように書かれていませんが、「検証報告書」の記述に信用性があるとすれば、当該週刊誌報道の“レイプ”の使用は、読者の興味をそそる効果はあっても、慎重さに欠けていたといえるでしょう。

前回も触れましたが、セクハラなどを含む女性に対する性暴力に関して、日本の新聞は、あまり真剣に取り上げず、週刊誌などがセンセーショナルに報じるのが特徴です。

記事構成や言葉遣いなどを作成し、ネットで公開

日本の多くの週刊誌は、内部関係者も認める通り、「売れるスキャンダル」である「下半身ネタ」を柱にしている傾向があります。

週刊文春の元編集長である花田紀凱氏(現月刊 Hanada 編集長)はこう書いています。

「『週刊現代』の部数を飛躍的に伸ばし、のちにマキノ出版を設立して、『壮快』などを創刊した名編集長・牧野武朗氏は『週刊現代』のテーマは三つに絞られると言った。「色、カネ、出世」だそうである。一方、『週刊新潮』の、というより新潮社のドン・斉藤十一氏は、自分も俗物と言いきったうえで俗物が興味を持つのは「カネと女と事件」と喝破している。言い得て妙というものだろう」(『花田式噂の収集術』KKベストセラーズ)

セクハラや性暴力問題についても、「下ネタ」のひとつとして扱っていると見受けられる週刊誌もあり、そうしたスタンスは、真の意味でのサバイバー(生還者)救済に逆効果ですらあります。

一方、海外では、性暴力を誠実に報道するために、取材の準備からインタビューの留意点、記事構成や言葉遣いなど、細かい規定を提案している団体もあります。そうしたガイダンスは、ジャーナリズム機関や性暴力被害者支援団体、そして多くがジャーナリストと支援者の連携によって作成され、ネットで公開されています。

これらの規定に共通しているのは、「メディアは、性暴力を一般大衆に知らせて学ぶ機会を作り、議論を向上盛り上げ、性暴力についてのステレオタイプな考えを変える重要な役割を果たす」という概念です。ジャーナリストは、「可視化されていない性暴力を報道することで問題を提起できる」だけでなく、「個人の事件を通して、データの開示や法律の説明、根本的原因の分析などをすることで、性暴力の全容を明らかにし、それに関連する社会問題や人権問題に言及できる」というのです。



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