性暴力報道のためのガイダンス(Reporting on Sexual Violence): ダートセンター

ガイダンス

[ダートセンター(DART CENTER for Journalism and Trauma)の許可を得て、当団体が策定した性暴力報道ガイダンスの日本語訳を掲載します]

性暴力を報じるための取材準備から記事執筆までの簡潔なヒント(Reporting on Sexual Violence

2011年7月15日

目次
準備と接触
インタビュー
記事の作成

性暴力報道には、特別な配慮および、より一層の倫理的感受性が求められます。専門的なインタビュー技術、法律に関する理解、トラウマの心理的影響についての基本的な認識が要求されます。

性暴力は身体的または精神的に、あらゆる年齢の男性、女性、子どもに対して行われます。そこにはレイプも含み、レイプは、人間が経験しうる最も深刻な衝撃的な体験のひとつであることが知られています。こうした出来事を話すことは、通常、非常に激しい苦痛を伴います。体験したことを再び話している最中に、サバイバーは攻撃されたときと同様の感情に襲われて、部分的に再体験することさえあります。それゆえに、ジャーナリストには、インタビューされる人の苦痛を悪化させないよう、特別の配慮が必要となります。性暴力は、より広い範囲にも影響を及ぼします。その影響は、家族や愛する人、さらにその行為の目撃者といった、ほんの少しのかかわりを持った人たちにも広がります。戦争の武器として使えば、なんと、その地域社会または近隣の集団と関連のある地域社会全体を根本的に変容させてしまうのです。

準備とアプローチ

性暴力の予想される影響と原因について徹底的に予備知識を得ること。地域の状況および実情を調査してください。しかし、いったん調査が終わったら、それにとらわれないでください。あなたがこのテーマに関する知識をどれだけ多く持っているかは重要なことではなく、あなたは特定個人がその当事者たちに起きた出来事をどう経験したかを推測することはできません。

言葉を正しく理解すること。レイプまたは暴行は、”セックス”ではありません。性的虐待の傾向をもつ行動は”情事”ではありません。レイプや性暴力は、一般的な性行為とはまったく関連がなく、女性の人身売買を売春と混同してはいけません。性暴力に苦しむ人々は、自分たちで言葉を選んだ場合は別ですが、”被害者”と表現されたくないかもしれません。多くは”サバイバー”という言葉を好みます。

インタビューされる人がノーと言う潜在的権利を尊重すること。誰であってもレイプほどのきわめて衝撃的な出来事について詳細に話すよう強制されるべきではありません。話すべき状況にいない人もいるのです。

  • その事件に関与する地域の専門家または支援機関が存在するのであれば、メディアに話すことで状況を悪化させる可能性があるかをその人たちに聞くよう検討してください。
  • インタビューする男性がどんなに親切でも、ほとんどの場合、女性の被害者は女性からインタビューされたほうが安心感を抱くと思われます。それが難しいのであれば、女性の同僚を同席させるべきです。
  • 公平かつ現実的でいてください。強制したり、丸め込んだり、だましたり、報酬を提供してはならず、インタビューに応じればより多くの援助/軍事介入がもたらされると持ちかけてはいけません。

ある人に近づくことが彼や彼女の安全およびプライバシーを危うくする恐れがないかどうか自分自身に問いかけること。社会によっては、レイプされたと疑われただけで、屈辱の原因となり、社会から排斥され、さらなる暴力を引き起こす可能性があります。慎重にものごとを進め、情報源として見込みのある人とどのようにどこで会うかについて検討してください。

  • 自分自身の身元をはっきりさせ、ジャーナリストでなはいふりをしては絶対にいけません。自分が書こうとしている記事の趣旨を説明することは、自分とインタビューされる人との信用を築くのに役立ち、さらによい仕事の結果につながる可能性があります。

インタビュー中

適正な基本原則を定めること。暴力および虐待行為は、人々から支配力と権力を奪うため、インタビュー中は、安心感を作りだすことが重要です。インタビューされる人には意思決定に関わってもらいましょう。インタビューされる人に、安全な場所と時間を提案できるか尋ねてください。

  • 通訳者を使うのであれば、そこで説明される基礎的なことについてインタビューされる人に要点を伝えます。テレビ・ラジオのジャーナリストは、インタビューされる人みずからの言葉でインタビューを録音し、取材クルーの数は最低限にすることを考えるべきです。
  • インタビューされる人に、どのぐらいの時間がかかりそうかを最初に知らせておきましょう。衝撃的な経験を説明している最中に、何の前触れもなく話を短く切り上げることは、深く傷つける可能性があります。

良いインタビューの秘訣はこちらから積極的に働きかけ、偏った判断を避けて聞くこと。これは簡単に聞こえますが、上達するには時間と努力が要求される技術です。

衝撃的な描写の詳細を知ったときの自分自身の反応がどのように会話に影響するかを過小評価しないこと。題材が難しいと感じたら、自分自身でそのことを静かに認め、言われていることが何であるのかに集中を戻します。通常、もう少し耳を傾けようとするだけで、相手の表情、ボディランゲージなどを観察することに役に立ちます。(ジャーナリストへの個人的影響を処理する時間は、インタビューの後にします)

性暴力はきわめて強い自己批判、罪悪感、羞恥心を伴います。そうした理由から、インタビューされる人に何らかの責任があることをほのめかす可能性のある言葉はすべて避けます。質問者が好む〝なぜ〟という問いかけには注意してください。

話の筋が通っていなくても驚かないこと。性暴力のサバイバーはしばしば、情緒的になり、”中断する”ことがあります。サバイバーの記憶は断片的になる可能性があり、場合によっては、出来事が完全に遮断されることさえあるかもしれません。不完全で矛盾した話は、偽りの推定的証拠ではなく、むしろ、苦悶するインタビューされる人が、自分に起こったことの意味を理解するための経験なのかもしれません。

サバイバーがどう感じているかわかると言ってはいけません―それはわからないのです。代わりに、こう言うことができます。「これがあなたにとってどんなに苦しいことかわかります」

インタビューを上手に終えること。自分の報道に必要な問題に対処し終えたら、インタビューされる人に、他に付け加えたいことはないかどうか尋ねます。そして、最も重要なことですが、忘れずに、会話を今すぐここで、インタビューされる人が安全だと思うことの議論に戻します。

自分の取材が掲載または放送された後にいつでも連絡がとれるよう準備しておくこと。記事のコピー/番組の録画をインタビューされた人に渡すと言えるのであれば、その約束をしてください。

記事の作成

もう一度言葉について考えること。性暴力は非常に個人的であり、より広範な公共政策的含意という両面をもっています。

  • 暴行を説明するために含める図式的な詳細な描写の分量を決める際、バランスをとるようにしてください。多すぎると余計ですし、少なすぎるとサバイバーの事件を軽視することになります。
  • 紛争時における兵士のレイプは戦争犯罪です。それを不運と書き表しますが、戦争のありきたりな側面と表現するのは好ましくありません。

報道の反響を予測すること。ジャーナリストは、インタビューされる人をそれ以上の暴行にさらしたり、地域社会での立場を悪くさせたりしないよう、できる限りのことに責任をもちます。

  • 人目に触れたときの反響を知り、事実誤認を見つけることができるので、掲載前に自分の記事の一部をサバイバーに読んでもらうことを考えましょう。読んだ後、ジャーナリストの意図の証拠を目にして、インタビューされる人は自分の話をもっと多く共有したいと決意をするかもしれません。
  • 記事全体について語りましょう。メディアは特定の出来事を明らかにし、その悲劇的側面に集中しがちですが、記者は、暴行が長年の社会問題の一部、軍事紛争、または地域社会の歴史の一部である可能性をよく理解していたほうがいいのです。個人や地域社会が長期的な性暴力のトラウマとどう闘っているかを知ることは、効果的な洞察力を加えることになるかもしれません。
  • 適切であるとみなされたのであれば、インタビューされる人、視聴者や読者に、性暴力に関連する資料および情報を教えます。それらのリンク先は、ダートセンターのウェブサイトで見つけることができます。


情報源の匿名を漏らす危険性がないか再度チェックすること。報道の最終段階で、うっかり個人の身元を特定する手がかりを残していませんか? 仕事、年齢、地域をジグゾーパズルのように組み合わせることで身元特定につながる可能性があります。写真やフィルムに写った顔や衣服はぼかす必要があります。

(翻訳:セクハラ報道と検証を考える会)


 

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