デイズジャパン最終検証報告書の検証(15)【NYタイムズと週刊文春】日本は告発型が主流 研究者や法律家も鵜呑みに

報道の検証

2020年2月24日、米ニューヨークの裁判所で行われていた刑事訴訟で、米ハリウッドの元大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインに性犯罪の有罪評決が下されました。

ワインスタインの性犯罪を明るみにしたのは、2017年10月5日の『ニューヨークタイムズ』紙の記事でした。続いて同月10日に掲載された、雑誌『ザ・ニューヨーカー』の調査報道ジャーナリスト、ローナン・ファローの記事も大きな話題になりました。

サバイバーたちがワインスタインの提訴に動いたのは、独自の取材と調査によるセクハラの調査報道で事実が確証されたからです。

報道が大きく事態を動かした事例です。広河隆一氏をめぐる問題も『週刊文春』の記事がきっかけになりました。

これまでも紹介してきたように、セクハラ報道をめぐる環境は欧米と日本では大きな差異がありました。詳しくは当サイトの「増加する海外のセクシャルハラスメント報道:裏づけや言葉遣いなど報道規約を設定して正確な報道を目指す」などをお読みください。

少し、ニューヨークタイムズ紙と週刊文春の記事を観察していきましょう。両者には大きな違いがありました。

これまでの流れ

まずはワインスタイン氏と広河氏をめぐる現状を確認しておきましょう。

2020年1月6日にはじまったワインスタインの刑事訴訟は、2人の女性が5件の性犯罪で起訴していました。この2人は、『ニューヨークタイムズ』の最初の記事には登場しません。

2006年に被害を受けた元番組製作アシスタントのミミ・ハーレイさんは第1級違法性行為と略奪的性的暴行罪、2013年に性的暴行を受けたという女優のジェシカ・マンさんは、第1級および第3級強姦罪と略奪的性的暴行罪で起訴し、ハーレイさんの第1級違法性行為とマンさんの第3級強姦罪が有罪となりました。しかし、最も重い略奪的性的暴行と第1級強姦罪は無罪でした。

ワインスタイン氏は2019年12月に民事訴訟でも、セクシャルハラスメント(以下、セクハラ)の被害を訴えた女優や元従業員30人以上と和解金2500万ドル(約27億円)の支払いで合意しています。

週刊文春で広河隆一氏のケースを報じたのは、ワインスタイン氏のセクハラ報道で盛り上がった#MeToo運動がきっかけだったいいます。

週刊誌記事のサバイバーのひとりは、2019年12月27日に「デイズジャパン検証委員会『報告書』」(以下、「検証報告書」)が発表された翌月、広河氏本人ではなく、発行元のデイズジャパン社に慰謝料など400万円の損害賠償を請求しました。

週刊誌報道が確固たる証拠をそろえたうえでの調査報道であれば、検証委員会が1年以上もかけて検証するまでもなく、広河氏の性犯罪が法的に証明でき、サバイバーたちも本人に対して訴訟に乗り出すことができたのでしょう。

当然ながら、ニューヨークタイムズ紙と週刊文春のセクハラ記事は、大きな違いがあるのです。

調査報道 VS 告発型・責任押し付け型報道

ニューヨークタイムズ紙やニューヨーカーの記事は、セクハラや性暴力の調査報道の評価を高め、アメリカだけでなく他の国でもこうした報道を増やす契機になりました。

しかし、残念ながら、日本では#MeToo以降もセクハラに関する調査報道はまったくといっていいほど確立されていません。

「検証報告書」には東京新聞と神奈川新聞の2紙の記事が、サバイバーの証言として引用されていました。どちらも調査報道とはいえず、サバイバーの手記でしかありません。神奈川新聞は2019年4月9日付の電子版「DAYS広河隆一氏性暴力問題 元社員『つながり声を』」、東京新聞の2019年2月18日の電子版「広河氏の性暴力など5人証言『恐怖で体が動かず』」はサイトから削除されています。

海外のセクハラ報道は、翻訳が紹介されることもほとんどないため、日本人の多くは、セクハラなどの問題を調査報道ではなく、週刊誌の手記のような記事やテレビのワイドショーで知るのが現状です。いわゆる被害告発型の報道が特徴的です。

学者や弁護士、ジャーナリストにいたるまで、週刊誌のセクハラ記事を何の疑いもなく信じることも特徴です。セクハラの調査報道を目にする機会があまりにも少ないからともいえるのかもしれません。

日本では調査報道によってセクハラ被害の実態を暴くことはほとんどないでしょう。例えば、朝日新聞デジタルが2020年3月4日21時30分に報じた「【独自】大手服飾社長が社員にセクハラ 政府会議の議員」という記事を見てみましょう。

内容は、洋服ブランド「アースミュージック&エコロジー」などを展開するストライプインターナショナルの石川康晴社長のセクハラ行為に関して、2018年12月に同社で臨時査問会が開かれました。

記事では「複数の女性社員やスタッフへのセクハラ行為をしたとして、2018年12月に同社で臨時査問会が開かれ、厳重注意を受けていたことが分かった。」とあります。セクハラを認定したのは臨時査問会であって、朝日新聞の調査報道ではありません。もし記事が間違っていても、臨時査問会がセクハラを認定したのであって記事はそれを伝えただけだ、という言い訳ができます。要は、セクハラがあったかどうかという根幹の事実の部分を、臨時査問会に寄りかかる書き方です。

だから、「特ダネ」や「スクープ」ではなく、単に他が報道していないということを宣伝するだけの記号である「独自」としか書けないのです。

しかも、記事をよく読むと、セクハラを受けた女性社員やスタッフ、セクハラをしたという石川氏には取材したと書いてありません。セクハラを受けた女性社員やスタッフ、セクハラは何人いて、そのうちの何人に取材ができたのでしょうか。それも不明です。

石川氏は内閣府の男女共同参画会議の議員を務めており、税金から報酬を受けている人物のセクハラは、調査報道に値するのですが、朝日新聞はせっかくの単なる臨時査問会の決定を追認するだけの報告記事で終わっています。「責任押し付け型報道」と言えるでしょう。

では、次回、ワインスタイン氏のセクハラを暴露した最初の記事と、週刊文集の広河氏の記事を比較してみましょう。


 


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